運命の恋は、雨のバス停から

午後になると来客が増え、受付前には短い列ができていた。
奈子ちゃんと手分けして、できるだけ待たせないように対応する。

一段落つき、ロビーには穏やかな時間が流れていた。

ガラスの扉の向こうに、ふとスーツ姿の男性が見えた。
その男性がこちらに向かって歩いてくる姿を見て、どこかで見覚えがある気がした。
胸がざわつき、記憶の糸を手繰り寄せる。
濡れた髪の毛をかき上げる仕草、少し困ったように笑う表情――その瞬間、ハッと息をのんだ。
あの日のバス停で出会った男性だ。

彼は受付カウンターで足を止めて、名刺を差し出した。

「お世話になります、高塚商事の雨宮です」

低く落ち着いた声が心地よく耳に響く。
私は一瞬、言葉を失った。

けれど、すぐに「いらっしゃいませ」と言って笑顔を浮かべて名刺を受け取る。
その瞬間、雨宮さんの視線が私をとらえ、わずかに目を見開いた。

「あの時の……」

小さく呟く声が聞こえた。

お互いに、あの豪雨の日にバス停で出会った相手だと気づいたのだ。
私は慌てて来客リストを確認してから、パスケースに入れた入館証を手に取る。
手が震え、心臓が早鐘を打つ。

「入館証です。こちらをICセンサーにかざすと、ランプが緑に変わります。お帰りの際は、受付にご返却ください」

そう言って、入館証を雨宮さんに差し出すと、彼は丁寧に受け取り静かに微笑んだ。

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