転生したら捨てられ公爵夫人になったので放置生活を楽しみます~使えない才女ですので、どうぞお気になさらず~
第一章 さんざんな花嫁

「悪いが、私は君を愛するつもりはない」
「――え? 申し訳ありません、レトラシカ公爵。今、何とおっしゃいました?」

 その時、わたしは本当に何を言われているのかわからなかった。
 夕日に光る礼拝室のステンドグラスの窓の外、空高くから聞こえた春を告げるヒバリの声に聞き惚れて、もうすっかり春よねえと、完全に気を取られていたからだ。
 しかし初対面なうえに、今日これまでにも「ああ」とか「さあ」くらいしかレトラシカ公爵の声を聞くことがなかったのだから、それも仕方がない。
 ガレミット侯爵家の令嬢だったわたし、アリアージュと結婚式を挙げ、夫となったばかりのエルヴァン・レトラシカ公爵は軽く眉根をよせた。そして溜め息交じりに言葉を続ける。

「君との結婚はあくまでも王命によるものであり、形だけの結婚だ。と言ったんだ」

 ああ、なるほど。それならば結婚したての相手、つまりはわたしに、この無愛想な表情を向けた意味もわかる。

「あまり驚いてはいないようだな」
「え……いいえ。ただ、その……」

 突然、無理やり押し付けられた王命による結婚。
 しかもその相手が、第一王子から婚約破棄された侯爵令嬢なんて、それは扱いに困るだろう。
 でも正直それはわたしの方も同じだった。

「……あの、レトラシカ公爵。その、それはわたしを公爵夫人として認められないということなのでしょうか?」

 まだ結婚式のためのウエディングドレスを脱ぐどころか、小さなスズランのブーケすら手の中にある。まさかこの状態でそんな台詞が出るとは思いもよらなかったが、疑問は早めに解消したほうがいい。
 わたしの問いに、公爵はその美貌を歪ませることなく真顔で答えた。

「いいや。私と婚姻を結んだのだから、君は間違いなくレトラシカ公爵夫人だ。司祭も、王家からの立会人もそれを証明してくれるだろう」
「それでは、いったい……」
「ただ、私の後継は亡き兄の息子、甥のカイゼルにすると決めている。だから君が公爵夫人としての義務を負う必要はないということだ」

 つまり公爵は、最初からわたしとの間に跡継ぎを作るつもりがなかったらしい。
 ああ。だからこんなにも寂しい結婚式だったのかしら?
 それでようやく合点がいった。
 由緒正しい公爵家にふさわしく、豪奢な大理石と色鮮やかなステンドグラスの礼拝室での結婚式。
 だというのにもかかわらず、参列者は、わたしやレトラシカ公爵家の数人の従者と騎士以外は王家の立会人のみ。
 レトラシカ公爵のご両親とお兄様はすでにお亡くなりになっているので当然としても、他の親族は誰ひとりとして参列されなかった。
 わたしの生家、ガレミット侯爵家に至っては、存命であっても両親であるガレミット侯爵夫妻すら参列していない結婚式だった。普通ならばこんな結婚式などあり得ない。
 まあ、それについては他の理由もあったわけだけれども。
 しかも王都から呼んだ司祭とともに、立会人たちは式が終わると同時にそそくさと王都への帰途についてしまった。
 披露の宴も何もないのは、準備期間の少なさや、わたしの某事情をおもんぱかってのことだとできるだけ好意的に考えてもみていたけれど、やはりそういうわけではなかったようだ。

「そういった理由なので、私の邪魔をしないこと。そして他の男と子どもを作るようなことのないこと。その二点さえ守ってもらえれば、君は何をしてもいい。王都で暮らしたければ許そう。好きな場所で好きなように過ごしてくれ。……ただし、そう贅沢はさせられないが」

 感情の乗らない声で淡々と告げられた。

 お金はかけてやれないが好きにしろとは結構な言い草に聞こえる。

「いきなりそうおっしゃられましても……」
「それに、私たちはお互い魔術書(グリモワール)を持たない身だろう。夫婦ともに生まれ持たない身のうちであれば、平民のように子どもも当然持つことなく生まれる可能性が高くなる。〝使えない〟と言われた君だからこそ、この提案を素直に受け入れてほしい」
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