転生したら捨てられ公爵夫人になったので放置生活を楽しみます~使えない才女ですので、どうぞお気になさらず~
グリモワール――それは古代、女神ルメルシェティアよりもたらされた魔術書のこと。
世界が生まれ混沌とした時代。弱き者が生き抜くために、女神ルメルシェティアの力の一部である〝魔法〟を使うために授かった手引き書である。
人々は授かったグリモワールを顕現させることで簡単な通常魔法を使うことができるようになった。
特に、赤・橙・黄・緑・青・藍・紫の七色の表紙のグリモワールは、その色ごとに違う属性を司り、生まれ持った主本人がグリモワールの中に書き写した魔法陣を操ることによって、強大な魔法を操ることができた。
人々がグリモワールを手に魔法を使い、魔獣を倒し、土地を平定し、そして秩序を作り上げるようになると、そこからいくつかの国が興り始めた。
そのうちのひとつ、このカロレステーレ王国では多くの貴族がグリモワールを持って生まれてくるようになる。
そのため貴族子女が十三歳から十八歳まで通うことになる王立学園では、剣術・社交などとともにグリモワールでの魔法の使い方も学ぶこととなっていった。
確かに公爵の言うとおり、わたしはグリモワールを持たずに生まれてきた。カロレステーレ王国の貴族としては珍しい方だが、さすがに〝使えない〟という言葉には苦笑いしか出ない。
そこまで直球で言わなくても良いでしょうに。
「ふぅ」と小さく息を吐き出すと、目の前に立つデリカシーの足らない夫をまじまじと見つめた。
さあ、わたしはこれからどうすればいいのかしら。
今日、わたしの夫となったエルヴァン・レトラシカ公爵は今年二十四歳になる。五年前不慮の事故で亡くなった実兄である前公爵から急遽爵位を継いだ、若き公爵だ。
輝くような金髪に宝石のような碧眼、鼻筋の通った見目麗しい姿に、王国でも一、二を争うほどの剣術の腕前を持つという。魔獣ですら魔法も使わず単身で倒す、美貌の貴公子と名高い。
グリモワールを持たない。そして領地が僻地にあるというマイナスを差し置いても、本来ならば縁談が引きも切らないほどの好物件のはずだ。
そんな公爵が、この年齢になるまで妻はおろか婚約者までいないのはその『跡継ぎは作らない』宣言が理由なのだろう。
……それは、女性側からも敬遠されても仕方がないわね。この様子ではおそらく公爵自身にその気もなかったのだろうけれど。
そもそも貴族の結婚というものは、家同士の繋がりを重視する。たとえ政略結婚だとしても、いやだからこそ跡継ぎは重要だ。
グリモワールならば片方が持ってさえいればほとんどの子どもは持って生まれてくることができるそうだから問題はない。
しかしただの繋ぎの公爵というのならば話は別だ。そんな相手に自らの娘を差し出そうという物好きな親はそうそういない。
そう。わたしのように、元婚約者であったトリステット第一王子殿下との婚約を、一方的に破棄されてしまい、行き場のなくなってしまった令嬢でない限りは――。
待って……。そうよね、そうだわ。それならばわたしだって……。
はっと気がついた。このレトラシカ公爵邸へ初めて足を入れ、一番胸を高鳴らせた、あのことを。
わたしは軽く目を閉じ、うん。と小さく頷く。そしてゆっくりと公爵へ顔を向けた。
「お話はわかりました、レトラシカ公爵」
「エルヴァンでいい。君は公爵夫人なのだから」
「……。はい、エルヴァン様」
少しだけ、何を言っているのかしらと、思わないでもなかったが、夫婦として神に誓い合ったのには違いない。司祭を前にちゃんと結婚の魔法契約も結んだ。
わたしは笑顔を取り繕い素直にエルヴァン様の名前を呼んだ。
「わたしの自由にとおっしゃるのでしたら、公爵家の図書室の鍵を預けていただけますでしょうか?」
「は? 図書室、だと」
「はい。図書室の鍵です」
世界が生まれ混沌とした時代。弱き者が生き抜くために、女神ルメルシェティアの力の一部である〝魔法〟を使うために授かった手引き書である。
人々は授かったグリモワールを顕現させることで簡単な通常魔法を使うことができるようになった。
特に、赤・橙・黄・緑・青・藍・紫の七色の表紙のグリモワールは、その色ごとに違う属性を司り、生まれ持った主本人がグリモワールの中に書き写した魔法陣を操ることによって、強大な魔法を操ることができた。
人々がグリモワールを手に魔法を使い、魔獣を倒し、土地を平定し、そして秩序を作り上げるようになると、そこからいくつかの国が興り始めた。
そのうちのひとつ、このカロレステーレ王国では多くの貴族がグリモワールを持って生まれてくるようになる。
そのため貴族子女が十三歳から十八歳まで通うことになる王立学園では、剣術・社交などとともにグリモワールでの魔法の使い方も学ぶこととなっていった。
確かに公爵の言うとおり、わたしはグリモワールを持たずに生まれてきた。カロレステーレ王国の貴族としては珍しい方だが、さすがに〝使えない〟という言葉には苦笑いしか出ない。
そこまで直球で言わなくても良いでしょうに。
「ふぅ」と小さく息を吐き出すと、目の前に立つデリカシーの足らない夫をまじまじと見つめた。
さあ、わたしはこれからどうすればいいのかしら。
今日、わたしの夫となったエルヴァン・レトラシカ公爵は今年二十四歳になる。五年前不慮の事故で亡くなった実兄である前公爵から急遽爵位を継いだ、若き公爵だ。
輝くような金髪に宝石のような碧眼、鼻筋の通った見目麗しい姿に、王国でも一、二を争うほどの剣術の腕前を持つという。魔獣ですら魔法も使わず単身で倒す、美貌の貴公子と名高い。
グリモワールを持たない。そして領地が僻地にあるというマイナスを差し置いても、本来ならば縁談が引きも切らないほどの好物件のはずだ。
そんな公爵が、この年齢になるまで妻はおろか婚約者までいないのはその『跡継ぎは作らない』宣言が理由なのだろう。
……それは、女性側からも敬遠されても仕方がないわね。この様子ではおそらく公爵自身にその気もなかったのだろうけれど。
そもそも貴族の結婚というものは、家同士の繋がりを重視する。たとえ政略結婚だとしても、いやだからこそ跡継ぎは重要だ。
グリモワールならば片方が持ってさえいればほとんどの子どもは持って生まれてくることができるそうだから問題はない。
しかしただの繋ぎの公爵というのならば話は別だ。そんな相手に自らの娘を差し出そうという物好きな親はそうそういない。
そう。わたしのように、元婚約者であったトリステット第一王子殿下との婚約を、一方的に破棄されてしまい、行き場のなくなってしまった令嬢でない限りは――。
待って……。そうよね、そうだわ。それならばわたしだって……。
はっと気がついた。このレトラシカ公爵邸へ初めて足を入れ、一番胸を高鳴らせた、あのことを。
わたしは軽く目を閉じ、うん。と小さく頷く。そしてゆっくりと公爵へ顔を向けた。
「お話はわかりました、レトラシカ公爵」
「エルヴァンでいい。君は公爵夫人なのだから」
「……。はい、エルヴァン様」
少しだけ、何を言っているのかしらと、思わないでもなかったが、夫婦として神に誓い合ったのには違いない。司祭を前にちゃんと結婚の魔法契約も結んだ。
わたしは笑顔を取り繕い素直にエルヴァン様の名前を呼んだ。
「わたしの自由にとおっしゃるのでしたら、公爵家の図書室の鍵を預けていただけますでしょうか?」
「は? 図書室、だと」
「はい。図書室の鍵です」