ロマンスに、キス



上辺だけなら、いくらでも作れる。むしろ、怒っているときほど、綺麗に微笑める自信があった。

感情を隠すために、この顔は何度も役に立ってきたから。

彼は、ようやくあたしのほうを見た。

視線が、初めてちゃんとぶつかる。

……なのに。

返ってきた言葉は――



「その顔、気持ちわりぃ」



一瞬、理解できなかった。

外見を褒められることしかなかった人生で、「かわいい」や「天使」なら聞き慣れているのに。

“気持ち悪い”。

そんな言葉を向けられたのは、初めてだった。

その瞬間、胸の奥で、何かが静かに切れる音がした。

無理に保っていた糸が、ぷつりと断ち切られる感覚。

――あたしの世界を支えていたものが、ひとつ、音もなく崩れ落ちる。


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