季節は巡り、隣のあなたはいつでも美しい
大人になった、あなたと私
「こんにちはー」
「いらっしゃい、葵ちゃん」
私――菅野葵が花屋さんに顔を出すと、ママさんが笑顔で出迎えてくれた。
「今日は藤乃くんと花音ちゃんはいないんですか?」
「花音ちゃんが検診だから、藤乃が送っていってるのよ」
「あの藤乃くんがパパかあ。ちょっと信じられないです」
「ねえ。あの泣き虫でへたれで友達もいない引っ込み思案の藤乃がねえ」
「私、そこまで言ってないですよ……」
ママさんは笑ってブーケを作っている。
そう、藤乃くんと花音ちゃんに子供ができた。
数日前に『安定期に入ったから』と藤乃くんが教えてくれたので、私は仕事が休みの日にこうしてやってきたのだ。
「葵ちゃんはお仕事どう?」
「覚えることばかりで忙しいです」
「私からすれば、あの小さい赤ちゃんが婦警さんになったこともちょっと信じられないわ」
「そうですか……? まあ私もまだ慌ただしくて実感薄いんですけどね」
そんな話をしてると花屋さんの裏口が静かに開いて藤乃くんが入ってきた。
「藤乃くん! 久しぶり!」
「おー、葵。久しぶり。元気? なんかたくましくなったなあ」
「そうでしょう。毎日訓練キツイんだよ。花音ちゃんは?」
「家で休んでもらってる。つわりが長引いてるんだよね」
藤乃くんは困ったように笑って花屋さんのエプロンを羽織る。
「それなら藤乃も来なくて良かったのに」
「そうしたかったけど、花音ちゃんに追い出されたんだ。先は長いし、今俺が家にいてもできることはないしね」
「花音ちゃんは里帰りするの?」
そう聞くと藤乃くんが首を横に振った。
「しない。由紀さんの家に帰ると澪さんの負担が増えるから。瑞希と澪さんの式の準備で向こうも忙しいしね。かわりに予定よりも早めに実家に戻るよ」
「そっかあ。新しいお家できてるもんね」
藤乃くんと花音ちゃんは今は近くのアパートで二人暮らし。
お花屋さんの敷地内にあった家の水道管が破裂しちゃったからだけど、少し前に立て直しが終わったのだ。
ママさんがニコニコしながら振り向いた。
「そうなの。小春さんが慌てて育児書買ってきちゃって藤乃と喧嘩してたわ」
「ふふ、パパさん張り切ってるんだ」
「舅が張り切ってもうっとしいだけだってのに」
唇を尖らせる藤乃くんにママさんにニコッと笑った。
「藤乃も同じ育児書買ってきたから、同じのが二冊ずつあるものね」
「う、うっさいな……」
藤乃くんはもう三十歳を過ぎていて、すっかりおじさんだけど、それでも私がずっと大好きな、物静かで穏やかな藤乃くんだ。
私ももう子供じゃなくて、駆け出しだけど警察官で、結婚の約束をした世界一かっこいい彼氏もいる。
「藤乃くん、おめでとう」
「ありがとう、葵」
「あ、再来年辺り、朝海くんと結婚するから式場のお花よろしく」
「任せとけよ。あ、俺の席、親父さんの隣にしといて」
「うん。お父さんと一緒に号泣してくれるんでしょ。花音ちゃんと、子どもの席もね」
その後少し喋ってお店を出た。
空は青くて風にはお花のいい匂いが混じってる。
……私の、大好きな匂いだ。
スマホを取り出して、出産祝いを調べた。
藤乃くんが私にくれたものを全部とは言わないけど、少しでも返していきたい。
「いらっしゃい、葵ちゃん」
私――菅野葵が花屋さんに顔を出すと、ママさんが笑顔で出迎えてくれた。
「今日は藤乃くんと花音ちゃんはいないんですか?」
「花音ちゃんが検診だから、藤乃が送っていってるのよ」
「あの藤乃くんがパパかあ。ちょっと信じられないです」
「ねえ。あの泣き虫でへたれで友達もいない引っ込み思案の藤乃がねえ」
「私、そこまで言ってないですよ……」
ママさんは笑ってブーケを作っている。
そう、藤乃くんと花音ちゃんに子供ができた。
数日前に『安定期に入ったから』と藤乃くんが教えてくれたので、私は仕事が休みの日にこうしてやってきたのだ。
「葵ちゃんはお仕事どう?」
「覚えることばかりで忙しいです」
「私からすれば、あの小さい赤ちゃんが婦警さんになったこともちょっと信じられないわ」
「そうですか……? まあ私もまだ慌ただしくて実感薄いんですけどね」
そんな話をしてると花屋さんの裏口が静かに開いて藤乃くんが入ってきた。
「藤乃くん! 久しぶり!」
「おー、葵。久しぶり。元気? なんかたくましくなったなあ」
「そうでしょう。毎日訓練キツイんだよ。花音ちゃんは?」
「家で休んでもらってる。つわりが長引いてるんだよね」
藤乃くんは困ったように笑って花屋さんのエプロンを羽織る。
「それなら藤乃も来なくて良かったのに」
「そうしたかったけど、花音ちゃんに追い出されたんだ。先は長いし、今俺が家にいてもできることはないしね」
「花音ちゃんは里帰りするの?」
そう聞くと藤乃くんが首を横に振った。
「しない。由紀さんの家に帰ると澪さんの負担が増えるから。瑞希と澪さんの式の準備で向こうも忙しいしね。かわりに予定よりも早めに実家に戻るよ」
「そっかあ。新しいお家できてるもんね」
藤乃くんと花音ちゃんは今は近くのアパートで二人暮らし。
お花屋さんの敷地内にあった家の水道管が破裂しちゃったからだけど、少し前に立て直しが終わったのだ。
ママさんがニコニコしながら振り向いた。
「そうなの。小春さんが慌てて育児書買ってきちゃって藤乃と喧嘩してたわ」
「ふふ、パパさん張り切ってるんだ」
「舅が張り切ってもうっとしいだけだってのに」
唇を尖らせる藤乃くんにママさんにニコッと笑った。
「藤乃も同じ育児書買ってきたから、同じのが二冊ずつあるものね」
「う、うっさいな……」
藤乃くんはもう三十歳を過ぎていて、すっかりおじさんだけど、それでも私がずっと大好きな、物静かで穏やかな藤乃くんだ。
私ももう子供じゃなくて、駆け出しだけど警察官で、結婚の約束をした世界一かっこいい彼氏もいる。
「藤乃くん、おめでとう」
「ありがとう、葵」
「あ、再来年辺り、朝海くんと結婚するから式場のお花よろしく」
「任せとけよ。あ、俺の席、親父さんの隣にしといて」
「うん。お父さんと一緒に号泣してくれるんでしょ。花音ちゃんと、子どもの席もね」
その後少し喋ってお店を出た。
空は青くて風にはお花のいい匂いが混じってる。
……私の、大好きな匂いだ。
スマホを取り出して、出産祝いを調べた。
藤乃くんが私にくれたものを全部とは言わないけど、少しでも返していきたい。