季節は巡り、隣のあなたはいつでも美しい
 息子が生まれたのはその半日後。

 初産にしては早くて安産だったということらしい。

 立ち会いをしていた俺には、とてもそうは見えなくて、花音ちゃんが死ななくて本当に良かった。なんかもう、俺の方が倒れそうだ。


「花音ちゃん、お疲れさま」

「……はい。藤乃さん、顔真っ青じゃないですか」

「うん。花音ちゃんが死んじゃうかもって思ったら、もう、どうしていいかわかんなくて」

「しっかりしてください、お父さん」

「だってさあ……」

「もー。あ、家に連絡はしましたか?」

「してない。してきます」

「お願いしますよ、お父さん」


 呆れられながら、うちの親と由紀さん、それから瑞希にも連絡を入れる。

 連絡しているうちに、花音ちゃんは分娩台から病室へと運ばれて行った。


「葵と理人にも写真送っていい?」

「かまいませんけど、子供だけにしてくださいね」

「もちろん。あ、由紀さんたちすぐ来るって。瑞希は交代で明日以降に来るってさ。澪さんも来てもいいかって」

「もちろん、いいに決まってるよ。お義母さんとお義父さんは?」

「花音ちゃんがいいなら今日、店を閉めてから来たいみたい。じいさんとばあさんも」

「お待ちしてますって伝えて」

「了解」


 あちこちに連絡したり、病院に書類を出しているうちに由紀さんたちが着いた。

 新生児室に案内すると二人ともガラス越しに、息子を見て涙ぐんでいる。


「……藤乃ちゃんそっくりだね」

「そうですか?」

「うん。よかった、須藤に似なくて」

「ちょっとあなた。お疲れさま、藤乃くん。これから大変だと思うけど、がんばってね」

「ありがとうございます。何かあったら、なくても頼らせてください」

「ええ。それじゃあ花音のところに行きましょう」

「あ、母さん先行ってて」

「はあい」


 俺は由紀さんと二人で、またガラス越しの息子を眺めた。

 あんなに小さいのに、間違いなく生きていて、時々手を動かしたり、唇を舐めたりしている。


「……なんか感傷的になっちまうなあ。あの赤ん坊は俺の孫らしいけど、桐子さんにそっくりだし、赤ん坊のときの藤乃ちゃんにも似てる。でも見てると瑞希や花音が生まれたときのことを思い出すんだよ」


 隣に立つ由紀さんは淡々と言いながら、じいっと息子を見ていた。


「そのうち、俺や小春のことじいちゃんって呼ぶのかなあ。あんな小さいのに」

「たぶん。呼ぶんだと思います。……俺も不思議でした。さっきカンガルーケアしてたんですけど、赤ん坊を抱えてる花音ちゃんは、花音ちゃんのはずなのに母さんにも由紀さんのおふくろさんにも似てて」

「母親になったんだよなあ。あの花音がなあ」


 そう呟く由紀さんの目には何が映っているんだろう。

 いつか、俺にも分かる日が来るのだろうか。


「まあ、頑張んなよ。手を貸すくらいはするから。あ、ランドセルは俺が買ってやっていいかな」

「気が早いです」

「須藤も買いたがるかなあ……そうしたら、瑞希の子で我慢するか……いやでも澪さんはどうしたいかなあ」

「あの、花音ちゃんのところに行きましょう。ランドセルの前に必要なものはもっといろいろありますから」


 悩み始めた由紀さんの背中を押して病室に向かった。

 病室に由紀さん夫婦と花音ちゃんの三人だけにして、俺はまた新生児室に戻った。

 赤ん坊は眠そうにあくびをしていて、かわいいのかどうかはよくわからない。

 でも、何人か並んで寝ている中で、その一人だけを見分けられるから、あれはたぶん俺の息子なんだろう。

 不思議だ。

 あのしわくちゃの赤ん坊には俺の血が入っているらしい。

 初めて葵を見たときとはまた違う感情がある。

 しばらくして帰って行った由紀さんたちを見送って、病室に戻った。

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