季節は巡り、隣のあなたはいつでも美しい
「ミズキさん」

「……うん」


 いつの間にか夜が更けていた。

 鬼である俺は夜目が効くから、気づかなかった。

 花菜と手をつないだ澪が無表情で俺を見上げていた。


「悪いな。お前の故郷、亡くなっちまった」


 澪は無言のまま、辺りを見回している。

 これで愛想を尽かされちまっても、まあ、しゃあねえよなあ。

 黙ったまま、澪の沙汰を待った。


「母様」


 しかし、それより先に花菜が声を上げた。


「お腹空いた」

「……そうよねえ。帰りましょうか」

「いいのか」

「子どものお腹を空かせたままにはできませんよ」


 きっぱりと言った澪は母親の顔で、俺がちぎって捨てた中にも、そういう顔をしていた人間がいた気がした。


「そりゃそうだ」

「父様も、手えつないで」

「汚えから、つないでやれねえなあ」

「畑仕事の後より?」

「うん」

「ミズキさんは川で汚れを落としてから帰ってきてください。……ちゃんと、帰ってきてくださいよ。私の故郷と母だけじゃなくて、夫までいなくなったら困ります」

「母?」

「ええ。ともかく、お願いします」

「……うん。わかった」


 家の前まで二人を送ってから、川で体を流した。冷たかったし、人間の血を川や土地に吸わせたくなかったけど、まあ、俺の自業自得だ。



 きれいにしてから帰ると、花菜が口の周りを芋でべちゃべちゃにして振り向いた。


「おかえりなさい、父様」

「うん、ただいま。」

「おかえりなさい、ミズキさん」

「……ただいま、澪」


 情けない声が出た。

 澪は笑いながら、俺の顔を布巾で拭った。

< 63 / 64 >

この作品をシェア

pagetop