『ドレスに宿る誓い』―Elara & Lanois 王国を変えた仕立て屋たち―
結婚式は控えめで、穏やかで、
どこか距離のあるものだった。

シルヴィアは純白のヴェール越しに
エルヴィンを見上げ、
「この人となら、静かに暮らしていける」
そんなささやかな希望を胸に、
ラノイ侯爵家へ嫁いだ。

新しい生活が始まったラノイ家は、
豪奢ではあるが
どこか寒々しい雰囲気があった。
 
侯爵夫妻――つまり義父母は、
決して意地悪ではない。
ただ、言葉の端々に滲むものがある。

「まあ……本当に白いお嬢さんね」
「あなたが嫁いで来てくれて本当に助かったわ」

冷淡ではないのに、優しくもない。
丁寧だが、
どこまでも“他人”のまま距離を置く態度。

シルヴィアはそれを敏感に感じ取り、
自分がここに“お金のために”嫁がされたのだと
痛いほど自覚させられた。

そんな中で、
唯一シルヴィアが頼れたのは
夫エルヴィンだけだった。

彼は誠実で、嘘を嫌い、
言葉少なだがいつも礼儀正しく接してくれる。
ただし──必要なことしか言わない。

「体調は、大丈夫か?」
「……困ったことがあれば言ってくれ」

その短い言葉の裏に優しさがあるのは、わかる。
けれどシルヴィアの心はいつも、

(どうして……もっと、私に興味を持ってくれないの?)
(やっぱり……“嫌われてはいない”だけなのだわ)

 と、自信のなさに揺れてしまうのだった。
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