『ドレスに宿る誓い』―Elara & Lanois 王国を変えた仕立て屋たち―
さらにシルヴィアの内気な心に
追い打ちをかけるように、
社交界では別の問題が待っていた。
エルヴィンは女性たちに人気があった。
真面目で、噂話を嫌い、
仕事に忠実で、
唯一無二の“誠実さ”が光っていたから。
そんな彼が“白い幽霊じみた伯爵令嬢”を
妻に迎えたと聞き──
一部の令嬢や若い奥方たちは、
面白くなかったのだろう。
「見た? あの人……昼間まともに外に出られないらしいわよ」
「まあ……そんな可哀想じゃない。ラノイ家の“亡霊”夫人だなんて」
ひそひそ声は、
シルヴィアの透き通るような耳に痛いほど届く。
何でもないと微笑むふりをしても、
胸の奥はキリキリと締めつけられる。
エルヴィンはそうした場面に気づいても、
特に何か言うわけではなく、
ただシルヴィアを庇うように
そっと手を差し出すだけだった。
その沈黙が優しさなのか、
無関心なのか──
シルヴィアにはわからなかった。
夜、
広い寝室で、
シルヴィアは小さく息をついた。
(私は……ちゃんと“妻”としてやれているのかしら)
(エルヴィンさまは……本当に、私と一緒になってよかったの?)
エルヴィンは隣室の書斎で仕事をしている。
礼儀正しい彼は、
毎晩決まった時間に戻ってきて
「おやすみ」と短く告げるだけ。
そのたびに少し胸が痛む。
(もっと、話せたら……)
(もっと私が普通の女性だったら……)
薄氷のように繊細な新婚生活。
ふたりは確かに互いを嫌ってはいない。
けれど──“まだ、好きになれていない”。
そんな距離のまま、
静かな結婚生活が幕を開けた。
追い打ちをかけるように、
社交界では別の問題が待っていた。
エルヴィンは女性たちに人気があった。
真面目で、噂話を嫌い、
仕事に忠実で、
唯一無二の“誠実さ”が光っていたから。
そんな彼が“白い幽霊じみた伯爵令嬢”を
妻に迎えたと聞き──
一部の令嬢や若い奥方たちは、
面白くなかったのだろう。
「見た? あの人……昼間まともに外に出られないらしいわよ」
「まあ……そんな可哀想じゃない。ラノイ家の“亡霊”夫人だなんて」
ひそひそ声は、
シルヴィアの透き通るような耳に痛いほど届く。
何でもないと微笑むふりをしても、
胸の奥はキリキリと締めつけられる。
エルヴィンはそうした場面に気づいても、
特に何か言うわけではなく、
ただシルヴィアを庇うように
そっと手を差し出すだけだった。
その沈黙が優しさなのか、
無関心なのか──
シルヴィアにはわからなかった。
夜、
広い寝室で、
シルヴィアは小さく息をついた。
(私は……ちゃんと“妻”としてやれているのかしら)
(エルヴィンさまは……本当に、私と一緒になってよかったの?)
エルヴィンは隣室の書斎で仕事をしている。
礼儀正しい彼は、
毎晩決まった時間に戻ってきて
「おやすみ」と短く告げるだけ。
そのたびに少し胸が痛む。
(もっと、話せたら……)
(もっと私が普通の女性だったら……)
薄氷のように繊細な新婚生活。
ふたりは確かに互いを嫌ってはいない。
けれど──“まだ、好きになれていない”。
そんな距離のまま、
静かな結婚生活が幕を開けた。