『ドレスに宿る誓い』―Elara & Lanois 王国を変えた仕立て屋たち―
「……通れ。気をつけて行けよ」

クラウスは半泣きで礼を言い、
馬車を進めた。

関所を抜けた瞬間、
胸の奥がぷつんと切れたように、
クラウスは深い息を吐いた。

「や……やった……本当に……!」

その時、背後から足音が。
驚いて振り返ると、
一人の兵士がついてきている。
けれどクラウスは動じることなく、
ニヤリと口角を上げる。

「やりましたね、エルヴィン様——」

兵士もふっと口の端を上げた。

「……あぁ、俺たちは自由だ」

兵士は兜を少し持ち上げる。
そこから覗いたのは、見慣れた灰金色の瞳。
「本当の交代は、あと十分後だ。さ、気づかれる前にここからは離れよう。この道を真っ直ぐ行けば森を抜けられる。その先で、蓮の花の公爵が待っているそうだ」

クラウスは静かに頷き、
手綱を再び握りしめた。

エルヴィンは馬車に乗り込むと、
大量の荷物で隠した二重底の蓋を
そっと開ける。

そこには、
息を潜め、身を縮こまらせている
愛しい妻の姿があった。

シルヴィアはエルヴィンの手を掴み、
二重底から這い出す。
そして震える声で呟いた。
「……国境を……越えたのね……?」

エルヴィンは彼女の手を取り、強く握る。
「ようこそ、ウィステリアへ。自由はもう目の前だ」

シルヴィアは涙を袖で拭った。

亡命者たちを励ますように、
夜明けの光が馬車を照らし始めていた。
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