『ドレスに宿る誓い』―Elara & Lanois 王国を変えた仕立て屋たち―
ある晴れた午後。
シルヴィアは街の広場で、
偶然足を止めた。

人だかりの中心で、
一人の女性がキャンバスに向かっていた。

長い栗色の髪を緩くシニョンにし、
白いシャツの袖を無造作に捲り上げ、
目をキラキラさせて筆を走らせている。

なぜか強烈に惹かれた。

シルヴィアが思わず覗き込んだ
キャンバスに描かれていたのは、
光と影だけで構成された街角の風景。
柔らかいのに力強い。
静かなのに、胸を締めつけるほどドラマチック。

絵の前に立った瞬間、
シルヴィアの心は一気に奪われた。

「……綺麗。」

ぽつりと漏れた言葉に、
女性画家は初めて視線をあげた。

その瞳は、深い灰色。
全てを見透かすような鋭さなのに、
どこか優しい。

「ありがとう。」

低い声でそう言った後、
彼女は筆を置いてシルヴィアに向き直った。
「私は リディア・モントローズ。
　あなた……絵を見る目があるわね。」

「え、あの、私はただ……」

「“ただ”じゃない。私の絵の良さが分かるなんて、センス大ありよ。」
そう言って冗談っぽく笑うと、
リディアはウインクした。

「絵を前にした時のあなたの表情、真剣そのものだったわ。」

こんなふうに、
シルヴィア自身を見つめてくれる人がいるなんて。

「……絵を、教えていただけませんか？」

自然とこぼれた言葉は、震えていた。

リディアは一瞬だけ驚いた顔をしたが、
すぐに柔らかく笑った。

「ええ。あなたが本気なら。
　明日、私のアトリエへいらっしゃい。」

運命の扉が、そっと開いた。
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