元プロバンドマンの部下は、私に気づかない~まさかの再会オフィスラブ~
その日の業務も終わりに近づいていた。オフィスには今、キーボードを叩く音だけが静かに響いている。


和那はこの日最後のメールを、取引先に送り終えると、小さく息をついた。


東都食品の案件も、ようやく軌道に乗った。湊ひとりに任せるのはさすがにまだ早いんじゃないか、営業課長は危惧していたが


「ずっと私と朝比奈さんでやって来たんです、もちろん出来得る限りのフォロ-はします。ですから、彼にやらせてみて下さい。」


和那はそう言い切った。そして、その後の経緯は、彼女の言葉の正しさを証明している。


(とりあえず、東都の件は一区切り。)


心の中で、そっと呟くと、和那はフッと息をついた。


もちろん終わったわけではない。それでも、この数週間は特別だった。湊とふたりで同じ方向を向いて、一つの案件に向かって、走り続けたのだ。


(そんな時間が次に巡って来るのは、いつなんだろう・・・?)


そう思うと、胸が締めつけられた。


(またまた、何考えてるんだろ、私・・・。)


苦笑いして首を振った、その時だった。


「南澤さん。」


聞きたかった声、ハッと振り向く。湊がいた。


「これ、お願いします。」


差し出されたのは、一枚の書類だった。


「東都食品さんとの進捗報告です。」


「ありがとう。」


受け取って、すぐに目を通す。内容に問題は・・・ない。


「完璧。」


そう言って返そうとして、目が合った。何か言いたそうに見える。気のせいだろうか・・・?和那は少し待ってみる。でも、言葉は聞こえて来ない。
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