元プロバンドマンの部下は、私に気づかない~まさかの再会オフィスラブ~
社に戻ると、例によって、部長がオフィスの前で待ち受けていた。


「南澤くん、お疲れ。お見事、その一言だよ。まぁ君にとっては、当然の結果だろうが。ということで、今夜こそ祝杯、どうだ?」


「部長、お気持ちは嬉しいのですが、『勝って兜の緒を締めよ』『驕る平家は久しからず』です。今日はお陰様で勝ちましたが、それが明日の勝利の何の保証にもならないことは、ご存じの通りです。次に向けての準備を怠れば、待っているのは敗北だけです。」


和那の真剣な表情と言葉に圧されて


「わ、わかった。そう言うことなら、また次の機会ということで。引き続き、よろしく頼むよ。」


そう答えて、部長はすごすごと退散して行く。


「毎回毎回、南澤さんにあしらわれてるのに、あの人も懲りませんね。」


呆れ顔でその後ろ姿を見送っている部下に


「上司をあしらうなんて、とんでもない。私はただ、真実を申し上げてるだけだから。」


澄ました顔で言うと、和那はオフィスに入って行ったが、騒然としているオフィスの様子に、思わず足を止めた。


「和那さん!」


女子社員が、彼女の姿を認めて、駆け寄って来る。


「ただいま。何かあったの?」


「それが・・・明日の打ち合わせに備えて、東都食品さんに送ったデータが差し替え前の旧版だったみたいで。今、先方からクレ-ムが・・・。」


「えっ?」


それは、いつか見た光景。


(東都食品って、担当は・・・。)


まさかと思いながら、部屋を見渡すと


「申し訳ございません、大変ご迷惑をお掛けいたしました。」


受話器を耳に、平身低頭している「彼」の姿が目に入り、和那は思わず息を呑んだ。
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