元プロバンドマンの部下は、私に気づかない~まさかの再会オフィスラブ~
「・・・はい、はい・・・かしこまりました。それでは、後ほど。」


最後にまた深々と一礼して、電話を切った湊が、自分を心配そうに見つめる和那を認めると


「お帰りなさい。」


と言いながら、ツカツカと彼女に近づいて行く。


「どういうことなの?」


厳しい表情で尋ねて来る上司に


「事務の方が、うっかり旧版データを送付してしまったようです。俺の確認ミスです、すみません。」


頭を下げる湊。


「それで?」


「先方にはお詫び申し上げて、正しいデータを既に送付しましたが、取り敢えず、これから東都食品さんにお詫びと確認の為に、伺って来ます。」


「私も行かなくて大丈夫?」


「先方にご迷惑をお掛けしてしまったのは、事実ですが、大事には至っていないはずです。南澤さんは午後に、大切な打ち合わせが控えてますから、お手を煩わせるまでもないと思います。」


湊は、真っすぐに和那の目を見て、答えた。


「わかった。じゃ、よろしくね。」


「はい。では、行って来ます。」


軽く一礼して、和那から離れた湊は、平身低頭する事務担当の肩を、ポンと1つ叩くと、オフィスを出て行く。


(成長したね。最初の頃とは別人。今の湊になら、東都食品のことなら、もうなんでも任せられる・・・。)


彼の後ろ姿を見送りながら、和那は思わず、こんな感慨に浸っていると


「南澤さん、早くお昼行かないと、クライアントが到着される時間になっちゃいますよ。」


社員のひとりから、声が掛かり


「いけない。じゃ、行って来るね。」


慌ててデスクにカバンを置くと、湊のあとを追うように、オフィスを出た。
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