元プロバンドマンの部下は、私に気づかない~まさかの再会オフィスラブ~
それから、数日が過ぎた。


フェス案件が終わり、オフィスの空気は徐々に落ち着きを取り戻して来た。その中に、朝比奈湊もいた。以前と同じように・・・いや違う。彼は変わった、明らかに変わった。頑なに、周囲に溶け込もうとせず、殻に閉じこもるような態度はとらなくなり、以前より話すようになった、そして以前より笑うようになった。


そう、和那の目に映る彼はあくまでビジネスマン、自分の部下である彼、それ以外の何者でもなかった。あの日、大勢の観客を、自らが奏でるベースの音で熱狂させたようには、とても見えない彼がそこにいる。


あの日、ステ-ジに立った湊は輝いていた。学生時代、密かに和那が憧れを抱いていた、あの頃の朝比奈湊が、そこにはいた。


(やっぱり、湊にはステ-ジが一番よく似合う。)


和那は改めて確信していた、そして彼自身も、それを感じていたはずだ。


(だから、彼はもう戻って来ない・・・。)


今の彼が自分の勤める企業の一員である以上、そんな勝手が認められるはずがないのに、そう思い込んでしまったくらい、和那にはそれが自然のことのように思えたのだ。でも、現実には、湊は翌日、普通に出勤して来たのはもちろん、その後も、音楽に戻ろうというそぶりすら見せない。


(なんで、なの・・・?)


心の中で湊に問いかける和那の脳裏に


『その理由は、南澤さんがいちばんよくご存じなんじゃないですか?』


神崎蓮の言葉が甦る。
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