《TwilightNotes ― 夜明けに鳴る音》

第1章・Scene2「窓際の少年」

 春の風が、またカーテンをゆらした。
 ざわつく教室の中で、窓際の席だけが別の時間みたいに静かだった。

 俺は、ただ外を見ていた。
 校庭の桜が散り始めて、花びらが風に流れていく。
 そんな景色を見てるだけで、少しだけ落ち着けた。

 この学校に来て、半年。
 誰かとつるむことも、ふざけ合うことも、あんまりしなかった。
 笑おうとしても、どこか上手く力が入らない気がしていた。


---

「――今日からこのクラスに入る、鈴木麻里奈さんです」

 担任の声に顔を上げた瞬間、視界にふっと光が差した気がした。
 前に立っていた転校生――鈴木麻里奈。

 緊張しているのに、ちゃんと笑おうとしている。
 その素直な明るさが、なぜか懐かしく感じた。

(……この子、どこかで……)

 一瞬だけ目が合った、気がした。
 ほんの少し胸が跳ねる。
 気のせいかもしれないのに、視線はそらせなかった。


---

 休み時間。
 彼女は前の席で静かにノートを開いていた。
 ざわざわした空気の中、まっすぐ黒板を写している。
 ときどき小さく息を吐きながら、それでも姿勢を崩さない。

 気づけば、また目で追っていた。
 窓の外を見ていたのは――きっと、見られている顔を隠すためだった。

(名前……麻里奈、か)

 春風がまた吹いて、彼女の髪がかすかに揺れた。
 その瞬間、胸の奥で小さな灯りみたいなものが、ふっと灯った。

 それが何なのかは、まだわからなかった。
 ただ、この日を境に、俺の世界は静かに色づきはじめていた。
< 3 / 4 >

この作品をシェア

pagetop