《TwilightNotes ― 夜明けに鳴る音》

Scene2「ふたりだけの作戦会議」

 深夜の大和のダンススタジオ。
 床にはノートパソコン、スケッチブック、衣装の参考写真が広げられている。
 小さなテーブルを挟んで、麻里奈と大和は向かい合って座っていた。
 大和が淹れたココアの湯気が、張りつめた空気をやわらかくほどいていく。
 
「仮面は……目元だけ隠す感じがいいかな。全部覆うと、表情が見えなくなってちょっと無機質になりそう」
 
 スケッチブックをなぞりながら言うと、大和はすぐに頷いた。
 
「うん。目で感情が伝わるほうがいい。
 アイドルって、結局“心”を届ける仕事だと思うから」
 
 その言葉に、麻里奈は胸の奥が少しだけ熱くなる。
 ――誰かの心に触れる音楽。
 文化祭のステージで感じた、あの光に包まれるような高揚感。
 あの時、私は彼の“ファン”だった。
 でも今は、隣に並んで同じ夢を追いかけている。
 その事実が、くすぐったくて、少し誇らしい。
 
「じゃあ、ウィッグはどうする?
 私、金髪とか似合わない気がするんだけど……」
 
「だからこそ、いいんじゃない?
 麻里奈って今までずっと清楚な黒髪のイメージだったから、真逆のほうが正体バレしにくいし」
 
「……なんか、大和くん、ちょっと楽しそう」
 
 くすっと笑うと、大和は照れたように視線を逸らした。
 
「うん、楽しいよ。
 だって、また君と一緒に歌えるんだ。高校の文化祭以来だろ?」
 
 ――あのステージが、俺の原点だ。
 君の声、君の笑顔、君と作った時間。
 あの瞬間が、今の俺を作った。
 だから今度は、俺が君を支えたい。今度こそ、ちゃんと。
 
「歌詞、どうしようか。
 “Twilight Notes”って名前に合う、切なさとか希望とか……
 ふたりだけの秘密みたいな世界を詰め込みたいな」
 
 麻里奈がメモ帳に走り書きをすると、大和が身を乗り出して覗き込む。
 
「“夜明け前のメロディー”ってどう?
 君と俺だけが知ってる、まだ誰にも見つかってない物語って感じで」
 
「……それ、すごくいい。
 ユニットの始まりにぴったりだね」
 
 「夜明け前のメロディー」 
 その言葉を胸の中で繰り返すと、まだ形にならない旋律が、静かに鳴り始める気がした。
 
 自然と、ふたりの肩の距離が近づく。
 手と手が触れそうで、触れない距離。
 
 ――この距離が、今の私たち。
 でも、音楽がきっと、心の距離を少しずつ近づけてくれる。
 このユニットは“恋”じゃない。
 “夢”から始まった、“運命”みたいなもの。
 
 それでも――
 君となら、どこまでも行ける気がした。
 
「よし。次は仮のレコーディングと、動画撮影もやってみよう。
 編集も俺がやる」
 
「……本気なんだね、私たち」
 
「うん。本気じゃなきゃ、意味ない」
 
 静かに、でも確かに。
 その夜、ふたりは“Twilight Notes”として生きていく覚悟を固めた。
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