《TwilightNotes ― 夜明けに鳴る音》

Scene4「Twilight Wish ― 曲づくりの夜」

夜のスタジオには、静かなピアノの音だけが響いていた。
 
何気なく鍵盤をたたく大和の指先。
その旋律はまだ未完成で、どこか心許ない。
けれど麻里奈は、隣でじっと耳を澄ませていた。
 
「……今の、もう一回弾いて」
 
ぽつりと零れた声に、大和が少し驚いたように振り向く。
 
「え、どこ?」
「そこ。さっきの……今、弾いたそのフレーズ」
 
大和は素直に、同じ旋律をなぞる。
麻里奈はそっと目を閉じ、胸に手を当てた。
 
(……なんだろう。胸が、きゅってなる)
 
音が、記憶を呼び起こす。
文化祭のステージ。
眩しい照明と、緊張で震える声。
ふたりだけの世界で、音が確かに輝いていたあの瞬間。
 
「この旋律に……歌詞をつけたいな」
 
そう呟いて、麻里奈はバッグからくしゃっとなったメモ帳を取り出す。
ページの端には、あの頃の自分が書いた、拙くて真っ直ぐな言葉。
 
「高校のときに書いてたやつ。合うかどうか、わかんないけど……」
 
小さく息を吸って、そっと歌い出す。
 
「――仮面の奥に隠したまま
 本当の声が、震えている――」
 
ピアノの音が止まった。
 
大和は、息を忘れたように麻里奈を見つめていた。
 
「……今の、すごくいい」
 
その言葉に、麻里奈は照れたように微笑む。
 
「ほんと? ……変じゃない?」
 
「変なわけない。むしろ、そこがサビでいいくらいだ」
 
視線が重なり、静かに熱を帯びる。
言葉はいらなかった。
 
(隠しているのに、こんなに素直になれるなんて)
(この想いが“秘密”じゃなければ、どれだけ楽だっただろう――)
 
「ねえ、大和くん。この曲にMVをつけるとしたら……どんなのがいいと思う?」
 
唐突な問いに、大和は少し考えてから、ふっと笑った。
 
「真夜中の交差点に、仮面をつけた男女が立ってる。
 背中合わせに踊って……でも最後に、同時に振り向いて、手を伸ばすんだ」
 
「……いいじゃん、それ」
 
麻里奈の声が、少し弾んだ。
 
「影だけが寄り添ってて、仮面は最後まで取らないの。
 “誰か”じゃなくて、“想い”そのものを映す存在みたいに……それが“Twilight Notes”」
 
「仮面のまま、心だけでつながる……か」
 
ふたりは顔を見合わせ、同時に微笑んだ。
夜が更けても、作業は終わらなかった。
重ねた音が夜気に溶け、言葉が少しずつ光へと変わっていく。
 
この夜、生まれたばかりの旋律と願いは――
確かに、“ふたりだけの秘密”として、静かに輝き始めていた。
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