《TwilightNotes ― 夜明けに鳴る音》
Scene5「仮面の下のリズム」
スタジオの扉を開けた瞬間、麻里奈は思わず足を止めた。
黒で統一された空間の中央には、いくつもの撮影用ライトが配置され、
床には立ち位置を示すテープが規則正しく貼られている。
張りつめた空気が、これから始まる“本番”を静かに告げていた。
――ここが、“Twilight Notes”としての最初のステージ。
隣で、大和が小さく深呼吸をする。
「いよいよ、始まるね」
麻里奈は静かにうなずいた。
青紫のウィッグ、目元だけを覆う銀の仮面。
鏡に映る自分は、もう“桜木麻里奈”ではない。
それなのに、仮面の奥で心臓だけは、はっきりと自分の鼓動を刻んでいた。
(……これは、私のままでいられる場所)
「似合ってるよ、麻里奈」
声に振り向くと、大和もまた黒曜石の仮面を身につけていた。
鋭く引かれたアイラインの奥にあるのは、あの頃と同じまっすぐな瞳。
「そっちこそ……まるで、本物のアーティストみたい」
「本物だよ。今日から。
“KAI”と“MARI”として、ちゃんと残すんだ。俺たちの最初の一歩を」
その言葉が、胸の奥で小さく弾んだ。
やがて撮影が始まる。
音が流れ、ライトが瞬く。
最初のステップ。
一瞬だけ、麻里奈の指先が迷った。
そのとき、大和の手が自然に伸びる。
――大丈夫。俺がいる。
言葉はなかったけれど、その動きだけで、すべてが伝わった。
リズムが重なり、呼吸がそろい、ふたりの影がひとつに溶けていく。
(顔が見えないのに……どうして、こんなにも伝わるんだろう)
仮面の奥で、心だけが裸になっていく感覚。
一番のサビが終わる瞬間、
大和がほんの一瞬だけ、仮面を持ち上げて笑った。
――ドクン。
その小さな仕草が、胸の奥に焼きつく。
「カット! 今の、最高だ!」
カメラマンの声がスタジオに響いた。
「二人とも、そのままの感情で、もう一回いける?」
「……もちろんです!」
麻里奈の返事には、これまでのどんな現場にもなかった熱がこもっていた。
作られた役でも、仮の存在でもない。
“今の自分”で立っているという確かな実感。
ライトの熱と、心臓の鼓動が、
同じリズムで鳴っている――そんな夜だった。
黒で統一された空間の中央には、いくつもの撮影用ライトが配置され、
床には立ち位置を示すテープが規則正しく貼られている。
張りつめた空気が、これから始まる“本番”を静かに告げていた。
――ここが、“Twilight Notes”としての最初のステージ。
隣で、大和が小さく深呼吸をする。
「いよいよ、始まるね」
麻里奈は静かにうなずいた。
青紫のウィッグ、目元だけを覆う銀の仮面。
鏡に映る自分は、もう“桜木麻里奈”ではない。
それなのに、仮面の奥で心臓だけは、はっきりと自分の鼓動を刻んでいた。
(……これは、私のままでいられる場所)
「似合ってるよ、麻里奈」
声に振り向くと、大和もまた黒曜石の仮面を身につけていた。
鋭く引かれたアイラインの奥にあるのは、あの頃と同じまっすぐな瞳。
「そっちこそ……まるで、本物のアーティストみたい」
「本物だよ。今日から。
“KAI”と“MARI”として、ちゃんと残すんだ。俺たちの最初の一歩を」
その言葉が、胸の奥で小さく弾んだ。
やがて撮影が始まる。
音が流れ、ライトが瞬く。
最初のステップ。
一瞬だけ、麻里奈の指先が迷った。
そのとき、大和の手が自然に伸びる。
――大丈夫。俺がいる。
言葉はなかったけれど、その動きだけで、すべてが伝わった。
リズムが重なり、呼吸がそろい、ふたりの影がひとつに溶けていく。
(顔が見えないのに……どうして、こんなにも伝わるんだろう)
仮面の奥で、心だけが裸になっていく感覚。
一番のサビが終わる瞬間、
大和がほんの一瞬だけ、仮面を持ち上げて笑った。
――ドクン。
その小さな仕草が、胸の奥に焼きつく。
「カット! 今の、最高だ!」
カメラマンの声がスタジオに響いた。
「二人とも、そのままの感情で、もう一回いける?」
「……もちろんです!」
麻里奈の返事には、これまでのどんな現場にもなかった熱がこもっていた。
作られた役でも、仮の存在でもない。
“今の自分”で立っているという確かな実感。
ライトの熱と、心臓の鼓動が、
同じリズムで鳴っている――そんな夜だった。