《TwilightNotes ― 夜明けに鳴る音》

Scene7「秘密のアトリエ」

 外の世界が夜に染まりはじめたころ、ふたりは並んでスタジオのドアをくぐった。
 カチリ、と鍵を閉める音が、小さく静寂に溶ける。

「ふぅ……やっぱりここ、落ち着くなぁ」

 麻里奈はスニーカーを脱ぎながら、つま先をぶらぶらと揺らす。
 その頬には、さっきまでの高揚がまだほんのり残っていた。

「わかる。あのテンションのまま帰るの、なんかもったいないし」

 大和はそう言ってメインの照明を落とし、間接照明だけを灯す。
 やわらかな光が壁を包み込み、スタジオは一気に“ふたりだけの空間”に変わった。

 麻里奈は、ほっと小さく息を吐く。

「……音、流してもいい?」 「うん。好きなの選んで」

 スマホをスピーカーにつなぐと、さっき完成したばかりの曲が静かに流れ出す。
 まだタイトルもないそのメロディは、夜の空気に溶け込みながら、ふたりの鼓動をそっと結びつけた。

「やば……またワクワクしてきた……」

 麻里奈はソファに弾むように腰を下ろし、指先でリズムを刻む。

「じゃあさ、軽く踊ってみる?」 「今から? ここで?」 「ここで。ふたりだけのリハーサル。……秘密のアトリエ、って感じで」

 大和が照れたように笑い、スタジオ中央の鏡の前で手を差し出す。
 麻里奈は一瞬だけためらってから、同じように微笑み、その手を取った。

(……文化祭のときと、同じだ)

 手のひらが触れた瞬間、胸の奥がきゅっと鳴る。
 あの日のステージの鼓動が、今の自分と重なってよみがえった。

 過去と現在が、音楽の中でゆっくり溶け合っていく。

 小さく一歩。
 次にもう一歩。

 ふたりのステップが、夜のスタジオに静かに重なり始めた。
 誰にも見せない、誰にも奪われない――
 “Twilight Notes”だけの、秘密の時間が、そっと動き出していた。
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