婿入りの顛末

泣くなよ、なんか言え -国王視点-

ユーハイム侯爵と王妃と共に応接室に入ると、セドリックの魂が抜けていた。
一緒に護衛騎士と秘書官として侯爵家へ移籍する側近二人も真っ白な顔で項垂れている。
取り囲む使用人たちからは極寒の空気が漂う。
そりゃそうだろう。いつもの軽口からの惚気をさんざん聞かされている身としては、冒頭の言葉は会話のきっかけに過ぎないが、言われた側としては見た目が好みじゃないなんてひどい侮辱だ。
普通は控室からの案内は使用人の仕事だが、婚約を好ましく思っていたソフィア嬢が一刻も早くセドリックに会いたいために案内を買って出たと聞いて、さらに胸が痛む。
心を寄せている相手から容姿を否定されるのはどんな仕打ちよりも残酷だと、王妃は涙を浮かべて嘆いている。
当のセドリックは抜け殻のまま。
私が呼んでも肩を掴んで揺らしても、王妃の気付け薬を嗅がせても戻ってこない。

そうこうしているうちにソフィア嬢が入って来た。
化粧で隠しているが目元が赤い。
その姿を見たセドリックは、はじかれたようにソフィア嬢の足元に跪き、何も言わずにぽろぽろ涙を流している。
泣くなよ、なんか言えよ。

呆然とセドリックを眺めるソフィア嬢に、側近二人は、ソフィアが聞いた軽口の冒頭部分を謝罪し、その後に続くセドリックの惚気と礼賛の言葉を伝え、私と王妃とユーハイム侯爵は出来るだけ詳細にセドリックがどれだけこの婚約を喜んでいたか、普段のセドリックのはた迷惑なほどの浮かれ具合を説明した。

「婚約の条件を追加してください。」

婚約期間中に浮気が認められた場合は即刻婚約破棄とし、有責側から相応の慰謝料を支払う事。
婚姻後、侯爵家の籍に入れるのはソフィアが生んだ子に限る事。3年の間に子が出来ない場合は傍系から養子を迎える事。セドリック殿下に愛妾または庶子が認められた場合、殿下を含めた生活費などに係る全費用の負担と全責任は王家にある事。何があろうとも侯爵家は一切関知しない。

うーん、なかなかの拒絶だ。
ユーハイム侯爵と王妃は顔を見合わせて深いため息を吐いている。

セドリックはこんな内容を気にもせずにサインするだろう。
彼にとっては問題になる部分が皆無とはいえるのだが・・・
どうか二人で乗り越えて幸せになってほしい。
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