日本語が拙い外国人と恋仲になりました
 たしか日本に来て十年くらいだと、以前に言っていた。
 チョウさんはとくに読み書きが苦手で、そのせいでなかなか仕事が上手くいかなくて困っていたらしい。ホテルの中国語翻訳スタッフとして採用してもらって、やっと自分が会社に貢献できると思った。だから必死に働いてきた。支配人補佐にまで昇り詰めたけれど、いつかは支配人になりたい。いつの日か日勤帰りの食事のときそう話していたな……。
 私はそれに対して、チョウさんにこう伝えたの。

『ビジネスホテルでは、お客さんとメッセージでやりとりをすることもあるのよ。日本語の読み書きももっとできるようになるといいわよね』って。
 そうしたらチョウさんったら、ニコニコしながらこう答えたの。

『ムラオカさんはワタシに日本語の書きかたを教えてください』

 私は、チョウさんとちゃんと約束した。日本語の読み書きも、教えてあげるねって。促音や拗音がとくに苦手みたいだから、その練習をしましょうって。つい最近話していたんだけどなあ。

 やっぱり、この前のこと本当は気にしていたのかな。無理して笑ってたのかな。

(……ちょっと待って。私、なにを考え込んでいるの?)

 電車に揺られながら、ハッとした。私、どうしてこんなに彼のことを気にしているんだろう。
 自分の気持ちに向き合ってはいけない。チョウさんとはこれからもよき仕事仲間でいたい、と思っているはずでしょう。

 ……らしくない。 
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