日本語が拙い外国人と恋仲になりました
第二章

13・僕の想い

※ ※ ※

 母が亡くなった。享年六二。あまりにも早すぎる死だった。
 肺癌を患っており、発覚したときには遅かった。手術や治療ではどうすることもできないほど進行していたのだ。

 十年ほど前から日本で暮らしていた僕は、母が癌になったことを知り、最後くらいは面倒を見ると生前彼女に伝えていた。
 これに対し、母は大袈裟に首を横に振った。

「私はまだまだ元気だ」
「お父さんがそばにいるから大丈夫」
「お前は日本で暮らすのが夢だったんだろう? それを捨てる必要なんてない」

 上海語で力強く語を並べる母は、僕が実家に戻ってくることを断固として拒否した。
 こんな状況で強がるなよと正直思った。

 母の癌が発覚してから一度だけ帰国し、会いに行ったことがある。彼女は驚くほど痩せていて、気力も失われているようだった。

 落胆する僕に向かって父は渋い顔でこう言った。
「彼女はあんなにも強がっているが、癌は確実に進行している。長くは持たない。何かあったときは必ず連絡する」と。
 だったら日本での生活はこれで終わりにする、と僕は伝えた。それなのに両親は東亮(お前)には迷惑をかけたくない、親戚が近くにいるからなんとでもなる、と答えるのだ。
 僕は渋々日本へ戻った。
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