日本語が拙い外国人と恋仲になりました
 そして、数カ月が過ぎた頃。母が危篤だと、父から連絡がきた。とうとう訪れた、別れの時。
 僕はとても動転してしまった。覚悟はしていたはずなのに。
 職場の上司に連絡をして、僕は急遽休みをもらった。

 その折にふと、彼女──ムラオカ ミキさんからのメッセージが目に留まる。
 お茶と朝鮮人参をありがとうございました、お仕事頑張ってください、という文言を見てたちまち胸が熱くなって。
 彼女は仕事中キリッとしているのに、食事へ行くときは少しだけ気が緩んだような表情をする。
 僕の下手くそな日本語を一生懸命聞き取ろうとして、なんでもない話でさえも笑ってくれる。仕事では頼りになる存在であり、僕が彼女に対して特別な感情を抱くまで長い時間は要さなかった。
 思い切って想いを伝えてみたけれど、あっさりと振られてしまった。とてもショックだった。諦めが悪い僕は、今でも彼女が好きだ。
 だから告白を断られたことなど気にしていない「フリ」をした。

 だが──空元気はよくないものだ。わざと笑顔で接するのは非常に辛かった。諦めないと彼女に伝えたが、もしかすると迷惑だったかもしれない。

 あのあとムラオカさんからもらったメッセージにどう返事をしようか迷っていた。考えて考えて考え込んでいるうちに、何日も送れず放置する形になってしまったんだ。これ以上嫌われたくなくて、メッセージひとつ返すのすら怖くなった。結局、返信をしない方が失礼だというのに。

 僕は自分勝手な人間だ。何かに夢中になると周りが見えなくなる。
 とくに恋をすると焦ってしまい、いつも失敗する。気持ちが前に出すぎて上手くいかず、相手に迷惑をかけてしまうんだ。
 こんなんじゃダメだよな……。
 もう、誰にも迷惑をかけないようにしたい。
 もちろん、ムラオカさんに対してもだ。
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