定時退社の主任には秘密がある

プロローグ

 次の電車の到着時刻まであと五分。
 中村柚亜は虚な目で駅のホームを眺めていた。平日昼のホームは閑散としており、人もまばら。落下防止策すらない地方の駅には寂しい雰囲気だけがある。
 あと二分。
 快速列車が風を切る。
 一瞬窓に映った自分の姿に嫌気がさす。
 頭は根本が黒くなっていて、表情は暗い。唇を一文字に結び、ロングスカートを靡かせ亡霊のように立つ自分。
 疲れていた。電車に乗ってあても無くどこかに行こうとしていた。電源を切ったスマートフォンとクレジットカードと少しの現金だけ。それだけ持って、隣の県に行って少し旅をしようと。それで何が変わるわけではないけれど、それしか自分を癒す策が見つからなかった。
 あと一分。
 もうすぐ電車が来るなと、向かってくる車両を見る。遅延もなくスムーズに来たようで良かったと思っていると、誰かにホーム側に勢いよく、ぐいっと引っ張られた。
「え?」
 電車が到着して、自分は尻餅をついていて。柚亜の腕を引っ張った男は顔面蒼白で叫んだ。
「早まらないでください!」
 それが、今の会社に入ったきっかけだった。
 男は柚亜の現在の上司として毎日顔を合わせている。
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