私の中のもう1人の私が好きな人

エピローグ




 早乙女家の墓石の前に蹲み込み琴音は手を合わせた。

「五月女違いだなんて変な感じ」

「運命って事かな」

 花を備えた蓮も隣で同様に手を合わせた。
 夏休みも終わり9月に入ったが、まだまだ暑い日が続いている。

 あれから私の中から文子は消えた。夢も見ていないし、不思議な事に文子の記憶自体が薄れていっている。
 蓮から文子の話をされても「あれ、そうだったっけ」と首を傾げるくらいだ。

 文子が消えた日、琴音は気付いたら自宅の部屋のベッドで寝ていた。話を聞けば意識のない琴音を蓮がおんぶをして連れ帰ってくれたらしい。
 灯籠流しの後から文子が消えるまでの間、記憶は全くない。しかも倒れた瞬間から目覚めるまでは夜寝て朝起きたくらいの感覚だ。
 蓮から詳細を聞かされかなり驚いた。自分の知らない間に、文子に身体を乗っ取られてたというのだから。ただ彼女に対して怒りの感情はない。少し能天気だと思うかも知れないが、文子の想いを考えると到底怒る気にはなれなかった。それに彼女の魂は琴音と繋がっていて、同一と言っても良いだろう。ただ琴音と文子は別人であり、生まれ変わりとは違う。

「折角友達になれたのに勇希くんがいなくなっちゃって残念だね」

「ボクは清々するけど」

「もう、そういう事言わないの」

「……ごめん」

 そして勇希は勇ではなかった。あの後、真実を告げられ謝罪された。
 簡単に言うと勇希は勇の孫で、似ていても何ら不思議はない。言動は全て勇から聞いていた昔話から真似したものだった。琴音は見た目や上っ面の言葉に騙されていたという訳だ。
 少し呆れたがそこに怒りはない。
 
 9月に入り直ぐに勇が病で亡くなった。
 勇が生きていたと聞いた琴音は酷く驚いが、会いたいと思った。文子はもういないが、無性に会って話がしてみたかった。だが結局会える事なく彼は亡くなってしまった。
 その為祖父と2人で暮らす勇は母の暮らす東京へと戻る事にした。一人暮らしで残ると母に告げるも認めて貰えなかった為だ。転校してきてまだ数ヶ月。実際は夏休みに入ってしまったので学校に通ったのは2ヶ月に満たない。
 折角仲良くなれて友達になれたのに本当に残念だ。

 勇希を見送った時、以前とは全く違う感覚がした。彼と話しているだけで妙な高揚感に包まれていたのがなくなった。大切な友達、それ以上でもそれ以下でもない。きっと琴音の中の文子が、勇の面影のある勇希を切望していたのだろう。

「今日のは力作だよ。勇さんのお墓にもお供えしたから一緒に食べてね」

 手提げから先程同好会で作ったばかりのおはぎを出すと墓石の前に数個供える。
 余談だが、勇の墓石もこの寺にある。どうせなら隣同士にしてあげたいが琴音にはどうする事も出来ない。

「……帰ろう」

「うん!」

 軽くなった手提げを蓮が持ってくれる。そして空いた手を蓮に確りと握られた。少し照れ臭いが琴音をその手を握り返すと、2人は寺を後にした。

 何処からともなく蝉の声が聞こえてくる。
 残暑のせいで風は生温く日差しが照りつけている。
 少し寄り道をして二頭山神社に立ち寄ってみた。長い石段を上り、喉が渇いたので自販機で飲み物を買って喉を潤す。見慣れた境内を2人でフラフラと歩く。暫くして飽きて帰ろうかと石段を下りようとして琴音はふと足を止めた。

 大きい鳥居が小さく見える。その先に広がる街並みに目を細めた。


 今から80年も昔に紡がれた淡く切ない恋。
 もし勇が生きて文子と再会出来ていたなら……少しだけ未来は変わっていたのかも知れない。いやそもそも戦争自体がなければ2人は平穏で幸せな人生を歩めていた筈だ。

 でももしもなんてこの世界には存在しない。だから私達は今ここにいる。意味のない事なんてないと思いたい。間違っても失敗しても、無意味な事なんてありはしない。

 文子は齢17という短命で生涯を終えてしまったが、彼女の人生は決して無駄なんかじゃない。文子の魂が私の一部であった事、そのお陰で勇希に出会い、そして彼女は勇と再会を果たした。

 それを美談と捉えるか、悲劇と捉えるかは私には分からない。ただ思うのは私は私を精一杯生きて行こうと思う。

「どうかした?」

「ううん、何でもない」

 差し出された手を取ると、ゆっくりと石段を下りて行く。





 終
< 32 / 32 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:0

この作品の感想を3つまで選択できます。

  • 処理中にエラーが発生したためひとこと感想を投票できません。
  • 投票する

この作家の他の作品

表紙を見る 表紙を閉じる
私はもう、貴方の為には生きられませんーー 幼くして政略結婚してから十年。年下で病弱だった夫のジュリアス皇子の看病をしながら妃として身を粉にして働き続け尽くしてきた。 だが快気したジュリアスから告げられたのは離縁だった。更に別の女性と結婚すると宣言される。だがその直後「これからもずっと一緒だよ!」そう言って彼は無邪気に笑った。どうやら浮気相手と三人で暮らすつもりみたいだ。その瞬間、エヴェリーナの我慢は限界に達する。 誰も守ってくれないなら、自分で自分を守るしかない。エヴェリーナは全てを捨て国を出た。 (無邪気に笑う貴方が世界で一番嫌いだったーー)
ごめんなさい、お姉様の旦那様と結婚します
  • 書籍化作品

総文字数/114,731

ファンタジー59ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
書籍発売記念のSS追加しました✨ いつもお読み頂いている読者様方のお陰で書籍化出来ました!本当にありがとうございます! ◆◆◆ 君を抱くつもりはない、初夜に彼からそう告げられたーー。 しがない伯爵令嬢のエーファには、三つ歳の離れた姉がいる。姉のブリュンヒルデは、女神と比喩される程美しく完璧な女性だった。端麗な顔立ちに陶器の様に白い肌。ミルクティー色のふわふわな長い髪。立ち居振る舞い、勉学、ダンスから演奏と全てが完璧で、非の打ち所がない。正に淑女の鑑と呼ぶに相応しく誰もが憧れ一目置くそんな人だ。   一方で妹のエーファは、一言で言えば普通。容姿も頭も、芸術的センスもなく秀でたものはない。無論両親は、エーファが物心ついた時から姉を溺愛しエーファには全く関心はなかった。周囲も姉とエーファを比較しては笑いの種にしていた。   そんな姉は公爵令息であるマンフレットと結婚をした。彼もまた姉と同様眉目秀麗、文武両道と完璧な人物だった。また周囲からは冷笑の貴公子などとも呼ばれているが、令嬢等からはかなり人気がある。かく言うエーファも彼が初恋の人だった。ただ姉と婚約し結婚した事で彼への想いは断念をした。だが、姉が結婚して二年後。姉が事故に遭い急死をした。社交界ではおしどり夫婦、愛妻家として有名だった夫のマンフレットは憔悴しているらしくーーその僅か半年後、何故か妹のエーファが後妻としてマンフレットに嫁ぐ事が決まってしまう。そして迎えた初夜、彼からは「私は君を愛さない」と冷たく突き放され、彼が家督を継ぐ一年後に離縁すると告げられた。
表紙を見る 表紙を閉じる
※注意。夫はクズです、ご了承下さい。 「まさか、身体の関係がある訳じゃないだろうな」  義弟との不貞を疑う初夜をすっぽかした夫。 「不貞をするなど、妻としての自覚はないのか?」  愛人が数十人もいる人間の台詞とは到底思えない。  自分は浮気をするけれど、妻には絶対に許さないという事だろうか……クズ過ぎる。 ◆◆◆ ど田舎貴族の伯爵令嬢エレノラ。お人好しの父のせいで伯爵家はいつも火の車だった。そしてある日ついに借金まで背負うハメに……。 そんな時、知り合いから公爵家の縁談話が舞い込んできた。しかも結婚すれば借金の倍額を支払ってくれるという。 更に相手の令息は家柄良し、頭脳明晰、眉目秀麗、その他馬術に剣術など完璧な青年だ。 ただ、無類の女好きで常時数十人もの女性と身体の関係のあるクズだった。 だが背に腹は変えられないと、エレノラは公爵家へと嫁ぐ事を決意する。 しかし対面した彼から「こんな芋っぽい娘だとはがっがりだ」「私の妻には相応しくない。よって、妻とは認めない」と一蹴されてしまう。 無類の女好きなのに、どうやらエレノラには興味がないみたいだった。 そして彼は初夜をすっぽかして愛人の元へ出かけて行った。

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品をシェア

pagetop