五つ子家庭教師は全員イケメン執事でした

第3話 初めてのモーニング ドキドキの見送り

翌朝。
まだ空が白くにじむ時間、あやめはふと目を開けた。

……いや、開けさせられた。

耳元で響く、容赦ない声。

「お嬢様、起床時間です!」

次男・陽太がカーテンを一気に開け、眩しい光が差し込んだ。

「ま、まぶしい……!」

布団に潜り込むあやめを、陽太は容赦なく揺らす。

「七時だぞ! 朝ごはん冷めちゃうって!」

「うぅ……あと五分……」

「ダーメ。ほら、起きて!」

その後ろで、長男・海斗が静かに腕を組んでいた。

「陽太、あまり強引にするとお嬢様が驚きます。……朝比奈様、おはようございます」

その声は低くてやさしくて、布団の魔力を弱らせる。

「……お、おはようございます……」

そこに四男・律が顔を出した。

「おはようございます、あやめさん。朝ごはんの後に、昨日の復習を少しだけしましょう」

甘くて柔らかい声。
寝起きの頭に染みる。

三男・蒼真は無言で窓の取っ手を直し、空気の入れ替えをしていた。
ただそこにいるだけで頼もしい存在感。

五男・優真は、トレーを抱えて近づいてくる。

「おはよ〜。お水持ってきたよ。無理しなくていいけど、ちょっと飲むと目覚めるよ」

小動物みたいな笑顔。
これにはあやめも負けた。

「……起きます……」

五人の表情が一瞬で明るくなる。

「よしっ!」「よかった」「無理しないでね」「朝は大事だからね」「準備できたら呼んで」

……朝から騒がしいけど、にぎやかで、どこかあったかい。

────────

朝食のテーブルには、陽太の作った和朝食。

「はい、お嬢様。卵焼きは甘めにしてみた」

「こっちは蒼真が切った漬物。形きれいすぎない?」

五男・優真が言って、蒼真が少しだけ照れる。

律が食卓を見渡しながら笑う。

「今日の授業は数学がメインですよね。放課後に復習しましょう」

「うん……ありがとう」

食事を終えると海斗が立ち上がった。

「そろそろお時間です。送迎はできませんが、玄関までお見送りします」

────────

制服に着替えて玄関に向かうと、五人が横に並んだ。

ドラマよりカッコいいんだけど……!!

「行ってらっしゃい、お嬢様」(長男・海斗)

「困ったらすぐ連絡しろよ!」(次男・陽太)

「帰りは俺がドア開ける」(三男・蒼真)

「気をつけて。放課後、一緒に勉強しましょうね」(四男・律)

「がんばってね〜、あやめちゃん」(五男・優真)

五つ子の視線に見送られ、胸がじんわりあたたかくなる。

ひとりで出ていく家じゃない。
帰る場所に誰かがいる…そんな当たり前を初めて知った朝だった。
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