五つ子家庭教師は全員イケメン執事でした

第4話 甘い距離の家庭教師タイム

学校から帰ると、玄関の前に四男・律が立っていた。

「おかえりなさい、あやめさん」

柔らかい茶髪が夕日を受けて光っている。
その笑顔は、まるでドラマの王子様みたいだった。

「今日は初めての家庭教師タイム、ですよね。無理のないペースで進めましょう」

「う、うん……」

どうしよう。
なんか心臓が変にドキドキしてる。

────────

リビングのテーブルには、律が用意した教材がきれいに並んでいた。

「数学、苦手って言ってましたよね。大丈夫、僕ができるまで教えます」

優しく言われると、それだけでできる気がしてしまう。

隣に座った律が、少し身をかがめてノートを見ながら説明を始める。

「ここの公式は……こういうイメージで覚えると楽なんです」

律の指先がノートに触れ、その距離は思ったより近かった。
横顔が近い。声も近い。
甘い匂いまでしてくる。

「……あの、近い……」

思わず小声で言うと、律はふっと笑った。

「ごめんなさい。説明するとき、つい距離が近くなってしまって」

その笑顔が反則級に優しい。

でも、教え方が驚くほど分かりやすい。
今まで苦手だった問題も、少しずつ解けていく。

「……あ、できた……!」

「ほら、やっぱりできますよ」

律が嬉しそうにほほ笑む。

「僕、知ってました。あやめさんはできる子です」

その言葉が胸の奥にまで響いた。
誰かにそんな風に言われたのって、いつ以来だろう。

────────

小休憩になり、五男・優真が紅茶とクッキーを運んできてくれた。

「おつかれ〜。甘いもの食べると頭が動くよ」

優真のほっこりした雰囲気に、心がゆるむ。

次男・陽太がキッチンから顔を出す。

「おー、進んでるじゃん。あやめ、さっきより顔明るいな」

「えっ……そうかな」

「うん。なんか楽しそうだから」

陽太の言い方はツンデレっぽいけど、どこか優しさを含んでいた。

三男・蒼真は、リビングの隅で静かに掃除をしながらチラッと視線を寄こす。

「……がんばってる」

それだけなのに、妙に刺さる。

長男・海斗はスケジュール帳を閉じて言った。

「今日の学習量は十分です。無理をさせないのが一番ですから」

「……ありがとう。なんか……すごく楽しかった」

その言葉に、五人が自然と笑った。

家の空気が柔らかくて、みんながそばにいてくれて
あやめは初めて、自分が誰かに大事にされている気がした。

「明日も一緒にやりましょうね」と律。

その声を聞いた瞬間、胸の奥がじんわり温かくなる。

こんな勉強時間なら、ずっと続いてもいい…
あやめはそんな風に思った。
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