五つ子家庭教師は全員イケメン執事でした

第6話 癒しの五男・優真。距離が近すぎる夜

その日の夜。
あやめはちょっとしたことで落ち込んでいた。

学校の小テスト、思ったより悪かった。
せっかく律が丁寧に教えてくれたのに、自分が情けなくて……。

部屋のソファで丸くなってスマホを眺めていると、
コンコン、と優しいノック。

「……あやめちゃん、入っていい?」

その声は、まるで甘いミルクティーみたいにやわらかい。

「うん……どうぞ」

ドアを開けたのは、
五男・優真。

髪はまだお風呂上がりで少し濡れていて、
ゆったりした部屋着姿。
その無防備さに、胸がふわっとする。

「今日ね、お菓子焼いたんだ。食べる?」

優真は小さなお皿にクッキーをのせて、
あやめの隣に腰を下ろした。

距離が……いつもより近い。

「テスト、落ち込んでるでしょ?」

「……やっぱり、分かるんだ」

「分かるよ。あやめちゃんって、表情に出やすいから」

優真はふっと微笑んだ。
その笑顔は、あたたかくて、沁みてくる。

「頑張ったんだよね。ちゃんと見てるよ、ぼく」

ぽん、と頭に優しく手が置かれる。

その瞬間、涙がこぼれそうになった。

「……頑張ったのに、全然できなくて」

「できるよ。あやめちゃんは、ゆっくりでいいんだよ」

優真の声はまるで子守歌みたいに心を溶かしていく。

気づけば肩が少し触れ合うほど近づいていて…
優真がそっと、ハンドタオルであやめの髪を拭き始めた。

「……ちょ、優真?」

「髪、まだ濡れてるよ? 風邪ひくよ〜」

子どもみたいに見えるのに、
こんなときだけ、男っぽくてドキッとする。

優真の指先が髪をすべるたび、心臓が跳ねた。

「ねぇ、あやめちゃん」

「……なに?」

優真は少しだけ真剣な顔になった。

「泣くとこ、ぼく以外に見せたくないな」

ドキッ…。

耳元で低くささやかれたそのひと言が、
いつもの優真とは全然違っていて。

一気に胸が熱くなる。

「あやめちゃんは、ぼくが守りたいんだよ」

こんな近い距離。
こんな甘い空気。

優真の弟系の顔も男の顔も、どっちもあやめの心をかき乱した。
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