Naked Love〜涙の跡を舌で辿る時〜
現状
孤独
【今年の冬は例年に比べても、概ね底冷えをするほどの厳しい寒さは、やって来ないでしょう】
そんな11月に入って後半に差し掛かった、お天気コーナーでの予報。
けれど、翌日朝のお天気ニュースにそれは早々に裏切られ、私はクローゼットの中から、既に用意しておいた滑らかな手触りがとても心地良いハーフコートと、その上にお気に入りで、厚手のワインレッドのストールを首から肩にに巻き付けた。
「寒い…」
まだ白くはならないが、はぁと息を吐くとすぐにその温度が冷めるから、気が滅入る。
精度が高く、信頼度の厚い気象庁が叩き出した予測なのだから、誰に当たっても仕方ないけれど、こうも二日、三日の間でコロコロ変わる予報なんて、そんなもの、端からしする事もないし、つい苛々してしまう。
なんせ私は寒さに滅法弱いのだ。
それは…つい最近フラれた…?のかなんなのか良くは分からないが、"お飾り程度"という名ばかりの元カレにも、
「お前って何気に冷たいよなー。あの変温動物とかいうやつ?みたいだよな」
と言われていた。
確かにと自分では思うけれど。
学生時代からの親友達にはそんな風に『変温動物』なんて言われた事はなくて、逆にそんな私の事を良く心配をされたっけ…。
昔から末端冷え性な体質なんだと言ったら、それなら余計に温めないとね!なんてよくホットココアやカイロを持たされて、温もりを分けて貰っていたから、他の誰かになんと言われようと構わなかった。
でも…本当は自分が冷たいのなんて分かっている。
そんなことは、分かり切っているんだ。
私は、「変温動物」なんてもんじゃなく、その別名の「冷血動物」に当たるのだと思っているのだから…。
それくらい、今は冷め切ってしまっている心。
………。
まぁ、そんな事はこの際置いておいて。
現在、私は退社してから程なくして、しとしとと降り出した雨に、うんざりしながらも傘をさす。
自宅に着くにはまぁまぁ…いや結構な時間が掛かる。
父からの強い意向もあり、女性の独り暮らしに向けて、きちんとした対策の出来るか確約の取れない、アパートよりも、防犯のグレードがアップしたマンションに必ず住む事を約束させられているのだ。
それを守らないならば、絶対に地元での就職は免れないと思い、父の言う通りに決めていく事にしたら、とんでもない事態になった。
ざっと説明すれば、独り暮らしを叶えるにあたって、それに応えるは、先ず会社からは少し遠くなってしまっても、必ず完全オートロック式でこじんまりとしていいから、一応コンシェルジュもいる、まぁ、しがないOLにとってはそこそこ痛い家賃はするけれど(最初は乳に仕送りをして貰い何とかなっていたけども)…一人で残業があったり、イレギュラーで一人夜道を歩くには、防カメも多く人の気配もちゃんとある、バス停を降りた後…私の足で約10分程、いやそれより少しだけ短いくらいの、かなり安全な動線のある場所……となった。
本当は(本音を言えば)悪天候の時や、今日の様なこういう…正にイレギュラーに残業が仕方なく入った場合によった時に、それが裏目に出たかと恨めしく思うが。
まぁ、よくよく考えれば、このマンションを内見した時、父とビデオ通話をしていて、散々此処だけ見てそれでいいのか?他も見てみれば良いじゃないか?と聞かれていたのに、此処の内装の良さに一目惚れして、即決で契約してしまった私が悪いのだけれども…。
ぽつぽつ、ぽつぽつ、
毎回使った後に、必ずスプレーで撥水加工を丁寧に施している傘へと、小さな水の塊として雨が、そんな音を立てて地面へと落ちていく。
お洒落重視の、濃い朱色のマーブル模様になっている一部透明の傘。
緩い雨の降る空にチラリと顔を上げれば、物凄いスピードで、灰色の雲が走り去り、かと思えば今度は分厚く黒い新たな雲が姿を現し、まるで灰色の雲を追い払う様に流れて行く…。
「あぁー…こりゃ嵐になりそうだなぁ…」
でも、テレビでは台風の前触れみたいな事は報道されていなかったのに…なんて何処か他人事の様に思いつつ、私は帰り道へと歩を進め、その場所から足早に去る事にした。
今日は、金曜日。
会社から自宅に行くまでのバス停へ移動するには、必ず通り抜けばならない、繁華街。
社会人であっても学生であっても、誰もが浮足立つ所謂"華金"だ。
こんな夜…大雨が降りそうな…それも嵐が来そうな天候になろうとも、多分、皆そんな事を気にも留めないで過ごすのだろう。
それくらい、仕事や勉強から解放される事を待ち望んでいた日なのかもしれない。
取り敢えず、毎日毎日ロボットの如くこき使われ、上司に媚びへつらい、部下の扱いに頭を悩まされたり(今は何をしてもハラスメント行為に当て嵌まってしまうから、私の隣の課の課長は頭が大分…)と、多忙極まりないのだから、自分も一会社員として、そうなるのも当然か、と頷く。
そんな事を何となくふと一つ疑問が浮かんだ。
"華の金曜日"なんて、ダサいネーミングを最初に付けたのは誰なのか。
いや、記憶が正しければ…確か、週休ニ日制とかになってから…そんな風に言われるようになったような…。
まぁ、目まぐるしく揺れ動く時代背景の中でそんな制度が誕生し、社会的に浸透し切らなければならなくなった、そんな初期の気の遠くなる時の流れの家庭の中で、私はまだ生まれてもいなかったし、もし生まれていたとしても、おまり興味はなかっただろう。
なんなら、一切の興味も湧かずにそういう事に対して見逃していただろう。
…それくらい、どうでもいい事だった…。
大体、私的に華金と言う物は、ガヤガヤと人に塗れ無ければならない、鬱陶しい程の雑踏の中に放り込まれるようで、何時だって気に入らない。
人の賑わいというか、同じ温度差で動けない所が、昔からある。
だから、何でも一人でこなしてしまう癖があった。
会社なんかの人間関係は、元々恵まれいるけれど、それ以外は当たり障りない程度に距離を保ってのお付き合いだ。
一人だけ…"職場飲み"(言い換えればただの合コン)で隣の席になった、何となく幼馴染に面影が少しだけ重なったその人と付き合おうかという雰囲気になったのだけれど、それでも全く懐く事が出来ず、告白されてそのままのらりくらりと誘いを断り続け、彼氏にも昇格しなかった彼には…。
まあ、きっと痺れをきらしたのだろうけども。
『顔が良くて付き合ってやろうかと思ったけど、イメージ違うのな。なんだよ『高嶺の花』って。理由分かんねー。ほんと、お前って、マジ可愛げ、無いんだわ』
『ま、お前は一人でも生きていける感じだし?』
最後に付くのは、負け惜しみのような、
『結局さ、お前って俺の事好きじゃないんだろ?』
なんて、ドラマや恋愛漫画なんかで、まるでテンプレートて面白みの欠片もないお決まり台詞を吐き捨てられ、最後には盛大な舌打ちまで、ご丁寧に頂戴した。
それに向けて、一言も私は反論なんてしない。
だって…。
答えは分かり切っている。
『私』は『私』。
そっちこそ私に誰の影を探しているんだか。
可笑しくて、ふっと嘲笑いが込み上げてしまう。
私を大切にしてくれる人は、この世の中で、唯一人。
今では誰にも告げたことの無い、秘密裏に胸へと深くに刻み込まれた…初恋相手のあの人だけだ。
こつんこつん。
仕事用で、私にしてはやや低めのパンプスを、雨音に負けじとアスファルトにぶつけながら、今夜はポトフでも作ろうかとなんとなく思った。
シチューやカレーとかよりも、さっぱりして温かくて、ホッとするようなものが無性に食べたくなったから…。
雨とほんの少しだけ巻き起こった風のせいで、肌に冷気が痛い程感じられる。
軽く目眩のしそうな、そんな事を頭に過ぎらせ、ふと考える。
そんな11月に入って後半に差し掛かった、お天気コーナーでの予報。
けれど、翌日朝のお天気ニュースにそれは早々に裏切られ、私はクローゼットの中から、既に用意しておいた滑らかな手触りがとても心地良いハーフコートと、その上にお気に入りで、厚手のワインレッドのストールを首から肩にに巻き付けた。
「寒い…」
まだ白くはならないが、はぁと息を吐くとすぐにその温度が冷めるから、気が滅入る。
精度が高く、信頼度の厚い気象庁が叩き出した予測なのだから、誰に当たっても仕方ないけれど、こうも二日、三日の間でコロコロ変わる予報なんて、そんなもの、端からしする事もないし、つい苛々してしまう。
なんせ私は寒さに滅法弱いのだ。
それは…つい最近フラれた…?のかなんなのか良くは分からないが、"お飾り程度"という名ばかりの元カレにも、
「お前って何気に冷たいよなー。あの変温動物とかいうやつ?みたいだよな」
と言われていた。
確かにと自分では思うけれど。
学生時代からの親友達にはそんな風に『変温動物』なんて言われた事はなくて、逆にそんな私の事を良く心配をされたっけ…。
昔から末端冷え性な体質なんだと言ったら、それなら余計に温めないとね!なんてよくホットココアやカイロを持たされて、温もりを分けて貰っていたから、他の誰かになんと言われようと構わなかった。
でも…本当は自分が冷たいのなんて分かっている。
そんなことは、分かり切っているんだ。
私は、「変温動物」なんてもんじゃなく、その別名の「冷血動物」に当たるのだと思っているのだから…。
それくらい、今は冷め切ってしまっている心。
………。
まぁ、そんな事はこの際置いておいて。
現在、私は退社してから程なくして、しとしとと降り出した雨に、うんざりしながらも傘をさす。
自宅に着くにはまぁまぁ…いや結構な時間が掛かる。
父からの強い意向もあり、女性の独り暮らしに向けて、きちんとした対策の出来るか確約の取れない、アパートよりも、防犯のグレードがアップしたマンションに必ず住む事を約束させられているのだ。
それを守らないならば、絶対に地元での就職は免れないと思い、父の言う通りに決めていく事にしたら、とんでもない事態になった。
ざっと説明すれば、独り暮らしを叶えるにあたって、それに応えるは、先ず会社からは少し遠くなってしまっても、必ず完全オートロック式でこじんまりとしていいから、一応コンシェルジュもいる、まぁ、しがないOLにとってはそこそこ痛い家賃はするけれど(最初は乳に仕送りをして貰い何とかなっていたけども)…一人で残業があったり、イレギュラーで一人夜道を歩くには、防カメも多く人の気配もちゃんとある、バス停を降りた後…私の足で約10分程、いやそれより少しだけ短いくらいの、かなり安全な動線のある場所……となった。
本当は(本音を言えば)悪天候の時や、今日の様なこういう…正にイレギュラーに残業が仕方なく入った場合によった時に、それが裏目に出たかと恨めしく思うが。
まぁ、よくよく考えれば、このマンションを内見した時、父とビデオ通話をしていて、散々此処だけ見てそれでいいのか?他も見てみれば良いじゃないか?と聞かれていたのに、此処の内装の良さに一目惚れして、即決で契約してしまった私が悪いのだけれども…。
ぽつぽつ、ぽつぽつ、
毎回使った後に、必ずスプレーで撥水加工を丁寧に施している傘へと、小さな水の塊として雨が、そんな音を立てて地面へと落ちていく。
お洒落重視の、濃い朱色のマーブル模様になっている一部透明の傘。
緩い雨の降る空にチラリと顔を上げれば、物凄いスピードで、灰色の雲が走り去り、かと思えば今度は分厚く黒い新たな雲が姿を現し、まるで灰色の雲を追い払う様に流れて行く…。
「あぁー…こりゃ嵐になりそうだなぁ…」
でも、テレビでは台風の前触れみたいな事は報道されていなかったのに…なんて何処か他人事の様に思いつつ、私は帰り道へと歩を進め、その場所から足早に去る事にした。
今日は、金曜日。
会社から自宅に行くまでのバス停へ移動するには、必ず通り抜けばならない、繁華街。
社会人であっても学生であっても、誰もが浮足立つ所謂"華金"だ。
こんな夜…大雨が降りそうな…それも嵐が来そうな天候になろうとも、多分、皆そんな事を気にも留めないで過ごすのだろう。
それくらい、仕事や勉強から解放される事を待ち望んでいた日なのかもしれない。
取り敢えず、毎日毎日ロボットの如くこき使われ、上司に媚びへつらい、部下の扱いに頭を悩まされたり(今は何をしてもハラスメント行為に当て嵌まってしまうから、私の隣の課の課長は頭が大分…)と、多忙極まりないのだから、自分も一会社員として、そうなるのも当然か、と頷く。
そんな事を何となくふと一つ疑問が浮かんだ。
"華の金曜日"なんて、ダサいネーミングを最初に付けたのは誰なのか。
いや、記憶が正しければ…確か、週休ニ日制とかになってから…そんな風に言われるようになったような…。
まぁ、目まぐるしく揺れ動く時代背景の中でそんな制度が誕生し、社会的に浸透し切らなければならなくなった、そんな初期の気の遠くなる時の流れの家庭の中で、私はまだ生まれてもいなかったし、もし生まれていたとしても、おまり興味はなかっただろう。
なんなら、一切の興味も湧かずにそういう事に対して見逃していただろう。
…それくらい、どうでもいい事だった…。
大体、私的に華金と言う物は、ガヤガヤと人に塗れ無ければならない、鬱陶しい程の雑踏の中に放り込まれるようで、何時だって気に入らない。
人の賑わいというか、同じ温度差で動けない所が、昔からある。
だから、何でも一人でこなしてしまう癖があった。
会社なんかの人間関係は、元々恵まれいるけれど、それ以外は当たり障りない程度に距離を保ってのお付き合いだ。
一人だけ…"職場飲み"(言い換えればただの合コン)で隣の席になった、何となく幼馴染に面影が少しだけ重なったその人と付き合おうかという雰囲気になったのだけれど、それでも全く懐く事が出来ず、告白されてそのままのらりくらりと誘いを断り続け、彼氏にも昇格しなかった彼には…。
まあ、きっと痺れをきらしたのだろうけども。
『顔が良くて付き合ってやろうかと思ったけど、イメージ違うのな。なんだよ『高嶺の花』って。理由分かんねー。ほんと、お前って、マジ可愛げ、無いんだわ』
『ま、お前は一人でも生きていける感じだし?』
最後に付くのは、負け惜しみのような、
『結局さ、お前って俺の事好きじゃないんだろ?』
なんて、ドラマや恋愛漫画なんかで、まるでテンプレートて面白みの欠片もないお決まり台詞を吐き捨てられ、最後には盛大な舌打ちまで、ご丁寧に頂戴した。
それに向けて、一言も私は反論なんてしない。
だって…。
答えは分かり切っている。
『私』は『私』。
そっちこそ私に誰の影を探しているんだか。
可笑しくて、ふっと嘲笑いが込み上げてしまう。
私を大切にしてくれる人は、この世の中で、唯一人。
今では誰にも告げたことの無い、秘密裏に胸へと深くに刻み込まれた…初恋相手のあの人だけだ。
こつんこつん。
仕事用で、私にしてはやや低めのパンプスを、雨音に負けじとアスファルトにぶつけながら、今夜はポトフでも作ろうかとなんとなく思った。
シチューやカレーとかよりも、さっぱりして温かくて、ホッとするようなものが無性に食べたくなったから…。
雨とほんの少しだけ巻き起こった風のせいで、肌に冷気が痛い程感じられる。
軽く目眩のしそうな、そんな事を頭に過ぎらせ、ふと考える。