Naked Love〜涙の跡を舌で辿る時〜
異性にこれほど悪く言われても全く心に響かないなんて、どうかしてる。
このままずっと一人だなんて寂しくないの?
希子ならこの先の人生、もっと有意義で楽しめるだろうに。
友達の一人に悪意なく問われた言葉。
勿論、寂しさを感じないのかと言われたら、答えは否だ。
本来の私は、泣き虫で臆病で、果てしなく弱い。
だからこそ、心に鎧を幾重にも打ち付けて、この世界の中で浅い呼吸を何度も何度も繰り返すんだ。
あの人がいなくなってから…。
私の元からまるで突き放す様に姿を消した時から、私は更に脆くなってしまった。
それは、傍から見ても感情がすっぽりと抜け切っている様に。
けれど、もう大分過去の事として、気持ちは凪いで来ていると思っていたのに、最近になってまたその感情の乱れみたいなものが、顕著に現れて来た様に自分でも思う。
それが何なのか、理由はその時考えもしなかったけれど。
無理やり捩じ込んでいた、気持ちが綻び出して様々な物事に向け、維持する事が困難になって来たようになった様な気がする。
そんな中、何人かの同僚から聞く限り、私のこの憂いを帯びた雰囲気がなんというか…全く無意識の間に異性を簡単には寄せ付けないオーラを発し、溜息さえも色っぽく見えるようだ、と…何時の間にか社内異性達から何故か『高嶺の花』とか言われているらしく、合コンに誘われる事が増えて、本当に心の底よりうんざりしている。
大体私のどこが『高嶺の花』だと言うんだ。
こんな、地味で冴えない私の何処が…?
それこそ、あいつの言った通り、
…なんだよ、『高嶺の花』って?
訳分かんねー…だわ。
がちゃん
雨は降っているもののバスの遅延もなく、本当に歩数十分ちょっとでやっと家に辿り着き、エントランスに入ると、白い制服を着たコンシェルジュの女性に 控え目に「お帰りなさいませ」なんて言われて、それに対して軽く会釈をする。
昔、あの人から貰った小ぶりのチャームが付いているキーケースを鞄の中から引っ張り出す。
初めてのプレゼントのこのチャームは、ドロップ型の淡いピンク色の真珠に小さな鈴が付いている。
それが揺れて風に乗り、りんっと鳴った。
そのチャームを壊さないようにしなから、でも少し使い古された気がする鍵を取り出して、少し乱暴にドアノブへとさし回した。
何時もの様に部屋に入り込み素早く施錠しチェーンを掛けて、ドアスコープがきちんと目張りしてあるかを確認する。
今時どんな事件に巻き込まれるか分からないから、そこは入念に…。
私は小さく呼吸を整えると、濡れてしまったパンプスを直ぐに乾す為に、玄関へ少し立て掛ける様にして並べ、身に纏っていたストールをするりと静かに外し、洗濯機のあるバスルームへと足を運んでから、それを無造作に投げ回した。そして、リビングに戻り暖房のスイッチを入れる。
ローテーブルは、冷え症な私を気遣って、父が送ってくれたこたつにもなるスタイルの物。
高さ的にも気に入っていて、其処のスイッチも緩慢な動きで、パチン、と押す。
今夜は本当に冷え込んでいるから、部屋は直ぐには暖まらないだろう。
だから、そのままキッチンに置いてある、メタリックブルーのケトルにミネラルウォーターを入れてスタートボタンを押した。
独り暮らしなのに、この夏と冬しか殆ど無かった今年の日本は、何だかんだと電気代はなかなか安くならないな、凄い痛手だな…。
なんて思いながらも、約ニ分も掛からずにお湯が沸くだろうからお気に入りのイニシャルがプリントされたマグカップに、簡易包装のドリップコーヒーをセットしておこうと思い立った。
ほのかに香る果実のフレーバーが、最近ハマっているコーヒー。テイストバランスもボディも私の為にあるのでは?と思う程。
こんな時こそ心に染みるんだろうなと、フッとまた息を吐く。
帰宅してから、ある程度のルーティンを一通りこなして、従姉妹から誕生日にプレゼントして貰った、フリース素材で肌触りの良いルームウェアに着替えた。
そして、何気なく窓の外に目をやると、きちんと閉め切っていなかった、厚めのレースのカーテンの隙間から、車のアップライトや、対向車のテールランプなんかが、ぼんやりと浮かんで、その光が誰かしらの生活の一部なのだろうと感じると、なんだか酷く心がざわりとさざめいた。
あ、やば…い…。
そう思ったら、瞳いっぱいに水膜が張り、まだ座ってさえもいないのに、瞬きをする隙も与えず、音も立てず…重力に逆らう事もなく、冷えていく雫が私の心を暴くかの様にぽたぽたと床へ落ちていく。
「〜〜っ」
別に今日何か特別辛いとか悲しい事があった訳じゃなくて。
偶にやってくる、こうした無遠慮で不安定な孤独さと虚無感。
それは、恐ろしいくらい、精神バランスに大きなダメージを与え、一人では手に負えなくなり、こんな風に自分で自分を抱き締めて、支え耐えなくてはならない。
そう…安心する温もりが、傍には居ないから…。
本音を言えば、今夜は食事もどうせ受け付けられそうにないけれど、そんな事を言っていたらまた、以前体調を崩した時みたいに、倒れたりしてしまうかもしれない。
だから、ふーっ、と気合を入れてシンクの斜め後ろにある、独り暮らしにしては少し大きめの冷蔵庫から、適当な野菜を出して、調理を始めた。
自炊は大分前からしていたから、歴は何気に長い。
なので、そこそこの自信はある。
まあ…見栄えに関しては、父にしか食べて貰ってないのでどうか分からないけれど…。
トントントンと、テンポ良く野菜を切っていく。
料理とは不思議な物で、私にとっては何も考えず無になれる時間。
一人だから見栄えは気にしない。
ザク切りのキャベツと乱切りの人参とじゃがいも達。
玉ねぎは好きだから多めに入れた。
味の核になる物をどうしようかと考え込んで、ベーコンよりもウィンナーにする。
そんな事をしていて気付いたら、鼻歌なんかが自然と出て来て…やっと落ち着いたのだとホッとした。
このままずっと一人だなんて寂しくないの?
希子ならこの先の人生、もっと有意義で楽しめるだろうに。
友達の一人に悪意なく問われた言葉。
勿論、寂しさを感じないのかと言われたら、答えは否だ。
本来の私は、泣き虫で臆病で、果てしなく弱い。
だからこそ、心に鎧を幾重にも打ち付けて、この世界の中で浅い呼吸を何度も何度も繰り返すんだ。
あの人がいなくなってから…。
私の元からまるで突き放す様に姿を消した時から、私は更に脆くなってしまった。
それは、傍から見ても感情がすっぽりと抜け切っている様に。
けれど、もう大分過去の事として、気持ちは凪いで来ていると思っていたのに、最近になってまたその感情の乱れみたいなものが、顕著に現れて来た様に自分でも思う。
それが何なのか、理由はその時考えもしなかったけれど。
無理やり捩じ込んでいた、気持ちが綻び出して様々な物事に向け、維持する事が困難になって来たようになった様な気がする。
そんな中、何人かの同僚から聞く限り、私のこの憂いを帯びた雰囲気がなんというか…全く無意識の間に異性を簡単には寄せ付けないオーラを発し、溜息さえも色っぽく見えるようだ、と…何時の間にか社内異性達から何故か『高嶺の花』とか言われているらしく、合コンに誘われる事が増えて、本当に心の底よりうんざりしている。
大体私のどこが『高嶺の花』だと言うんだ。
こんな、地味で冴えない私の何処が…?
それこそ、あいつの言った通り、
…なんだよ、『高嶺の花』って?
訳分かんねー…だわ。
がちゃん
雨は降っているもののバスの遅延もなく、本当に歩数十分ちょっとでやっと家に辿り着き、エントランスに入ると、白い制服を着たコンシェルジュの女性に 控え目に「お帰りなさいませ」なんて言われて、それに対して軽く会釈をする。
昔、あの人から貰った小ぶりのチャームが付いているキーケースを鞄の中から引っ張り出す。
初めてのプレゼントのこのチャームは、ドロップ型の淡いピンク色の真珠に小さな鈴が付いている。
それが揺れて風に乗り、りんっと鳴った。
そのチャームを壊さないようにしなから、でも少し使い古された気がする鍵を取り出して、少し乱暴にドアノブへとさし回した。
何時もの様に部屋に入り込み素早く施錠しチェーンを掛けて、ドアスコープがきちんと目張りしてあるかを確認する。
今時どんな事件に巻き込まれるか分からないから、そこは入念に…。
私は小さく呼吸を整えると、濡れてしまったパンプスを直ぐに乾す為に、玄関へ少し立て掛ける様にして並べ、身に纏っていたストールをするりと静かに外し、洗濯機のあるバスルームへと足を運んでから、それを無造作に投げ回した。そして、リビングに戻り暖房のスイッチを入れる。
ローテーブルは、冷え症な私を気遣って、父が送ってくれたこたつにもなるスタイルの物。
高さ的にも気に入っていて、其処のスイッチも緩慢な動きで、パチン、と押す。
今夜は本当に冷え込んでいるから、部屋は直ぐには暖まらないだろう。
だから、そのままキッチンに置いてある、メタリックブルーのケトルにミネラルウォーターを入れてスタートボタンを押した。
独り暮らしなのに、この夏と冬しか殆ど無かった今年の日本は、何だかんだと電気代はなかなか安くならないな、凄い痛手だな…。
なんて思いながらも、約ニ分も掛からずにお湯が沸くだろうからお気に入りのイニシャルがプリントされたマグカップに、簡易包装のドリップコーヒーをセットしておこうと思い立った。
ほのかに香る果実のフレーバーが、最近ハマっているコーヒー。テイストバランスもボディも私の為にあるのでは?と思う程。
こんな時こそ心に染みるんだろうなと、フッとまた息を吐く。
帰宅してから、ある程度のルーティンを一通りこなして、従姉妹から誕生日にプレゼントして貰った、フリース素材で肌触りの良いルームウェアに着替えた。
そして、何気なく窓の外に目をやると、きちんと閉め切っていなかった、厚めのレースのカーテンの隙間から、車のアップライトや、対向車のテールランプなんかが、ぼんやりと浮かんで、その光が誰かしらの生活の一部なのだろうと感じると、なんだか酷く心がざわりとさざめいた。
あ、やば…い…。
そう思ったら、瞳いっぱいに水膜が張り、まだ座ってさえもいないのに、瞬きをする隙も与えず、音も立てず…重力に逆らう事もなく、冷えていく雫が私の心を暴くかの様にぽたぽたと床へ落ちていく。
「〜〜っ」
別に今日何か特別辛いとか悲しい事があった訳じゃなくて。
偶にやってくる、こうした無遠慮で不安定な孤独さと虚無感。
それは、恐ろしいくらい、精神バランスに大きなダメージを与え、一人では手に負えなくなり、こんな風に自分で自分を抱き締めて、支え耐えなくてはならない。
そう…安心する温もりが、傍には居ないから…。
本音を言えば、今夜は食事もどうせ受け付けられそうにないけれど、そんな事を言っていたらまた、以前体調を崩した時みたいに、倒れたりしてしまうかもしれない。
だから、ふーっ、と気合を入れてシンクの斜め後ろにある、独り暮らしにしては少し大きめの冷蔵庫から、適当な野菜を出して、調理を始めた。
自炊は大分前からしていたから、歴は何気に長い。
なので、そこそこの自信はある。
まあ…見栄えに関しては、父にしか食べて貰ってないのでどうか分からないけれど…。
トントントンと、テンポ良く野菜を切っていく。
料理とは不思議な物で、私にとっては何も考えず無になれる時間。
一人だから見栄えは気にしない。
ザク切りのキャベツと乱切りの人参とじゃがいも達。
玉ねぎは好きだから多めに入れた。
味の核になる物をどうしようかと考え込んで、ベーコンよりもウィンナーにする。
そんな事をしていて気付いたら、鼻歌なんかが自然と出て来て…やっと落ち着いたのだとホッとした。