Naked Love〜涙の跡を舌で辿る時〜
「じゃあ、柏木さんに、この資料の中からレイアウト拾って貰ってもいいかしら?」

「はい!分かりました。あの、このレイアウトを使うのは何時のプレゼンで使うやつでしょうか?」

「あぁ、ちょっと先の物だから、そんなに慌てなくてもいいわよ。柏木さんの仕事は何時も丁寧なの分かってるからね」

左目の目元に二つのホクロが色気を際立てている、我が課の課長である中嶋さんは、本当に同じ女性の私から見ても見惚れてしまう程の美貌の持ち主で、異例のスピード出世を果たしたからか、それとも持ち合わせている全てがその見た目と同じに秀でているからなのか、その優しさと器の深さはもう…あわよくば一度でいいからオーラを一身に触れさせて頂きたいくらいだ。


「あ、有難う御座います!そんな風に課長に褒めて頂けるなんて、凄く光栄です!私頑張りますね!」


そんな憧れの課長からのお褒めの言葉に、私はドキドキしながらも、嬉しくてにこにこしながら、奮起するのだった。

さぁ、今抱えてるやつがもう直ぐ終わるから、何時も通りにちゃんと確認して、先輩に修整箇所を探してもらって、それで気持ちを引き締めて、頑張って次も頑張ろう。

ぺこっと課長に挨拶をしてから、自席に戻ろうとする前に
渡されたファイルを持ち直して、それと同時に幾つかのディスクを、途中の施錠されてるロッカーから出して来て、自席に戻り、私は自分のタブレットにも資料を共有しようと、ゴソゴソと用意をしていた。

そして、其処から30分位経った頃、先程受付まで足を向けてしまった成宮先輩が戻って来た。

「柏木さんっ、盛大に追い返してあげたわよ〜。なかなかのイケメンさんだったけど、なんか切羽詰まった感じだったから、出なくてよかったかもね」

「成宮先輩、助かりました〜。こういう時の対処法って、まだ習慣付いてなくって、ご面倒お掛けしました」


自分の業務を置いておいて、態々私の為に動いてくれた先輩に、心の底から感謝の意を込めてそうお辞儀をすると、成宮先輩はくつくつと笑ってから、

「いーの、いーの。受付嬢の瀬上ちゃんから内線受けて、なんか一人でテンパってる感じだったから、丁度良かったしね、気にしないでいーよー。困ったときはお互い様だしね」 

ぱちん、

そんな可愛い効果音が付きそうな程、軽いウィンクを貰い、私も心が軽くなった。

でも…こんな私に会いたいなんて、どんな人だったんだろうか?と考える。
だって、今迄そんな事を一度も無かったし…。
ぽかっときっちり空いていたほんの少しの…五分程度の休憩中に、やって来た突然のアポイント。

謎が多すぎて、モヤモヤした。

それを真向かいの席で見ていたらしい成宮先輩が、あ、そうだと、デスクから立って此方側に手を手を差し出して来た。

それを手に取ってから不思議に思って、なんですか?これ?と言わんばかりの視線を送れば、ジェスチャーで見てご覧と言われる。 

真っ白で、少しシャープな印象を受ける、シンプルなデザインの、一枚の名刺。

しっかりした、白い紙質のそれに書かれた文字を視界に入れるか否か、私はその瞬間雷が頭の上にバリバリと落ちて来たかの様な、そんな物凄い衝撃を受けた。

「…浪岡…悠久………」

それは、何万回と好きを貫いた、初恋の人の、…名前だった。

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