こよみ男子を救え!~12人の月めくりカレンダーたちに愛されちゃって!?~
Calendar1.睦月を救え!)
日向こよみ、中学1年生。
冬休みに入ったから大掃除ついでに来年のカレンダーを用意しようかなって、ペラッとめくった時だった。
「おばあちゃん大変!このカレンダー、12月しかないよ!」
まだ新品なのに1月から11月までごっそっとなくなってて12月しかなかった。
「こよちゃんどうしたの?カレンダーが12月しかないって」
「あのねおばあちゃん!見てよこれ、表紙をめくったらもう12月なの!おかしくない!?」
「あらほんと、どうしてかしらねぇ」
おばあちゃんにも12月しかないカレンダーを見せた。
誰かが使っちゃったのかなって思ったけど、この家にはわたしとおばあちゃんしかいないし今開けたばっかの新しいカレンダーに12月しかないってそんなことある?
「他のカレンダーにしよっかねぇ、12月しかないのは困るから」
そう言っておばあちゃんが棚から別のカレンダーを取り出した。
くるくる筒状になっていたカレンダーを開いてペラッと表紙ををめくった…んだけど。
「やっぱりない!」
このカレンダーにも12月しかなかった。
なんならこっちも、そっちも、どっちも、いくつもカレンダーを見てみたんだけどどのカレンダーも12月しかなかった。
なんで?どうして?
12月しかないんだろう??
「こよちゃん、おばあちゃん隣のお家に行って聞いてくるからねちょっと待っててね」
心配になったおばあちゃんがお隣さん家に出かけていった。
おばあちゃん家は和風なお家で、ちょっと古い。たたみばっかな部屋の中は歩き回るとみしみし音がする。
居心地はよくてわたしは気に入ってるけどね。
「うーん、どうしよっかな~…」
腕を組んでうーんと考える、どれを見ても12月しかない。
今年のカレンダーも12月だけ、来年のカレンダーも12月だけ…
なんでこんなことになったんだろう?
12月しかない来年のカレンダーを手に取った。
誰かのいたずらかな?
でも全部のカレンダーにいたずらするなんてないと思うし…
じゃあどうして?
12月しかないカレンダーはどうなるのかな…?
「まさか永遠に12月ってことないよね!?」
ずっとずっと12月しか来ないなんてこと、まさかないよね!!?
そんなの…っ
「まさかのその通りだ!」
持っていた12月のカレンダーが消えた、次の瞬間わたしの目の前にボンッと現れたのは…
「わっ、なに!?」
男の子…?
とにかく肌が白く透き通って、キリッと吊り上がった眉に切れ長の目、すぅーと透った鼻筋に、ツヤッとしたくちびる。
キラッと光る銀色の肩までかかる髪の毛をハーフアップにまとめて、背の高い真っ白のお坊さんのような服を着た…
誰!?
「おっ、久しぶりのこの姿の私もかなりイケてるな」
カレンダーの隣にかけてあった鏡に映った自分の姿を見てペロリと舌を出した。
うん、でもその通りなんだけどすっごくカッコよくて二度見しちゃったぐらいだしね。
キラキラまぶしくて、まるで真冬に降る粉雪みたいな…
「私の名前は極月だ、極月様と呼んでくれ」
なんか中身はあれな気がするけど。
じゃなくて何!?
急に12月のカレンダーがすごいカッコいい男の子になったんだけど!?
「こよみ、君に頼みがある」
ずいっと近づいた、まっすぐ目を見て。
え、てゆーかなんでわたしの名前…?
「今、暦の世界では大変なことになってるんだ」
「暦の世界…?」
って何のこと?
どの世界が大変なことになってるの?
いきなり言われてもちんぷんかんぷん…!
「暦とは時間の流れを年、月、週、日の単位に体系付けたもので、その体系を記したものがカレンダーだ」
「え、カレンダー!?」
それならわかる、今見てたし。
それで12月しかないって見てたら急にカレンダーが人間の男の子みたいになって…
「ここ最近の日本は春の花粉が多かったり、夏が異常に暑かったり、秋がほとんどなくてかと思えば冬は急にやって来る…っとまぁめちゃくちゃなんだ」
それは…なんとなくわたしも思ってた。
秋はいっぱい焼き芋とか甘栗とか楽しもうと思ってたのに、すぐに寒くなっちゃって今はおしるこがマイブームだもん。
「それに悩まされた奴らももうめちゃくちゃで…」
ん?
奴ら?
って誰のこと…
また知らない人たちが出てきた。
「だからこよみ、助けてほしい」
「え!?」
いきなりわたしの手をぎゅうっと両手で包み込むように握った。
冷たい手にちょっとびっくりしちゃった。
でもドキドキして、男の子に手を握られたのなんか初めてだったから。
「このままだとずーっと12月のままになってしまう!」
「それは困る!」
「困るだろう、そんなことになったら」
「困ります、すごく!」
だってわたしの誕生日は1月なんだもん、おばあちゃんがおいしいケーキ作ってくれるって言ったのに1月が来なかったら誕生日迎えられないよ。
あと無理かもだけど、誕生日プレゼントにはNintendo Switch 2を買ってもらえないかなって…
いや、それは厳しいってわかってるけど夢ね!夢だからね!?
「じゃあ引き受けてっ」
「待ってください!」
パッと手を離した。
どんどん話が進んじゃうから、確かに春夏秋冬めちゃくちゃなのはわかるしずっと12月のままなのも困る。
だから助けてって言われることはわからなくはないんだけど、1個どうしても気になることがあって…
「なんでわたしなんですか?」
どうしてわたしなんだろう?
どうしてわたしの名前を知ってたの?
なんで私が選ばれたの?
「こよみは暦の世界のお姫様だから!」
………え?
暦の世界のお姫様…??
「ずっと探していたよ!暦の世界を救ってくれるこよみを!」
「え、待って待って!ちょっと意味がわからないんですけど!」
わたしがお姫様?
そんなわけないよ、ただの中学生だよ!
おばあちゃんと2人暮らしの中学生だよ!?
「やっと見付けた」
にこっと笑う、笑ったお顔もカッコいいんだ。こんな人、学校にはいないかも。
「まさかこんなちんちくりんとは思わなかったけど」
うぉぉぉい!
失礼だな、ハハッて笑って失礼すぎでしょ!!
でも…
「こよみ頼む、引き受けてくれないか?」
右手を差し出された。
たぶんこれは握手かな?
わたしがその手を取ったら、引き受けることになるのかな…
少し不安はあるよ、突然そんなことを言われてわたしにできるのかなって。
「助けてくれたらそれなりの褒美をやる」
「え、褒美?」
ってご褒美ってこと?なにかもらえるの?
顔を上げて目を合わせた。そしたらくすっとほほ笑んだ。
「好きなだけ私の美貌を拝ませてやろう」
「……。」
めっちゃキメ顔で言われた。無駄にキラめいてる、フッてカッコつけて。
この人、自分のこと大好きなんだなぁ…
ってしみじみ思った。
「なんだ不満か?好きなだけだぞ、こんな光栄なことはないぞ?」
「あ、いえ…」
でもそれでやります!って別にならないっていうか、そもそも助けるって何したらいいかわかんないしやっぱ断ろうかな…
「ならば、これはどうだ?」
今度はなんだろう、一緒に写真でも撮らせてくれるの?それも全然ほしくなっ
「何でも願い事を1つ聞こう」
「え、願い事!?」
「あぁ、何でもこよみの叶えたい願いを聞いてやる」
「それって…ほしいものでもいいの?」
それはもしかして諦めてた夢が叶うってこと?わたしがほしがってた…
「もちろんだ」
Nintendo Switch 2が手に入るの!?
「やります!」
気付いたら手を取ってた。
ぎゅって握って、しっかり握手してた。
くすって笑う極月様と。
「ではさっそく、早々に1月が来てしまうからなあいつから呼ぶか」
極月様が胸元からカレンダーを取り出した。
あ、なんだ1月あるじゃんって思ったけどよく見たら日にちが3日から始まってたり、10日の次は12日になってたりめちゃくちゃな数字の並びしてた。
これは使い物にならなそうな1月のカレンダーだけど…
極月様がふわっと上に投げて手をかざした。
その瞬間もくもくとケムリが立ち込めてボンッとまた現れた、男の子が。
「いってぇなぁ、なにすんだよっ!」
今度は真っ赤な髪してる!赤い髪がツンツンしてる!
でも服はジャージだ、普通に黒のジャージ着てる!!
だけど、またカッコいい子だなぁ…
目つき悪くてちょっと怖そうだけど。
「なんだ、思ったより元気じゃないか」
「全然ッ元気じゃねぇよ!体はだるいしやる気は出ねぇし最悪だよ!」
呼び出された時にたたみで腰を打ったのかドカッと座ったままさすさすとなでていた。
「こよみ紹介しよう、こいつは1月の睦月だ。バカみたいにうるさくてどこにいても目立つ奴だ」
「バカってなんだ!ふざけんなよ!」
「他に紹介することがない」
そんでもって極月様とは仲が悪いっぽい、今にもケンカしそうな勢いでバチバチしてる。
「つーかオレに何の用だよ、師走…っ」
「その名で呼ぶな」
ぐいっと踏みつけてた、その場に踏み倒すみたいに。すごいつり上げた眉でにらみつけて。
え、そんなに気に入らなかった!?
てゆーか今、師走って言った?
極月様のこと…
「お前の名前は師走だろ!」
「違う極月だ!」
「またそうやって呼ばせてんだろ、どーせ」
「極月だって12月の名だ、間違いではない」
えっと、待って待って…
またわたしを置いてどんどん話が進んでいくんだけど?
まだ新しく増えた男の子のことも受け入れられてないのに。
「本当はこいつ師走って言うんだよ」
「違う、極月だ」
フンッと鼻を鳴らす極月様の足を払ってわたしの方を見た、のそっと起き上がりながら。
「坊さんが12月は忙しく走り回るから師走ってな」
へぇ、そうゆう意味があるんだ12月には。
年が明ける前にお参りとかちゃんとしておきたいもんね、わたしもおばあちゃんと必ず行ってるし。
「でもイキって極月なんて呼ばせてんだよ」
「イキってなんかない、極月だって私の名だ!」
「師走もお前の名だろーが!」
「その名前で呼ぶな!!」
「あーっ、わかりましたわかりました!」
今にもケンカしそうな雰囲気だったのがケンカに変わりそうな予感がしてあわてて間に入った。うちの中でそんなことされたら困るから。
「極月様は極月様です!」
って一応言っておいたんだけど、全然止まらなくて。
「様とか言わせてんなよ」
「私には必要な敬称だ」
「師走のくせに」
「なんだと!」
「もうやめて!!」
家中にひびく声で叫んじゃった。おばあちゃんいなくてよかった、びっくりしてたよねきっと。
「どちらも名前ならわたしは極月様って呼ぶんで…」
でもそんなにわーわー言われるとちょっと気になっちゃって、チラッと極月様を見ながら聞いてみた。
「なんで師走って呼ばれるのが嫌なんですか?」
変なあだ名とかだったらね、その気持ちもわかるけど自分の名前が嫌なんてそれは少し可哀そう…
「この美貌にお坊さんは似合わない」
「……。」
あ、なんか心配して損した。
全然可哀そうじゃなかった、そうだこの人自分大好きだった。
「あー…くそっ、だりぃな~…」
ごろんとたたみの上に転がった。
「あの睦月さんっ」
「睦月でいい、こんな奴呼び捨てでいい」
「……。」
「別に睦月でいいけど」
くたっと倒れ込んで仰向けになって目を閉じた。
しわの寄った眉がわずらわしそうで、本当に体調がよくなさそう…
大丈夫かな?
「極月様、わたしは何をすればいいんですか?」
倒れ込む睦月の前で、隣に立つ極月様を見上げた。
助けてほしいって言われたけど何をすればいいのかまだ聞いてない、わたしに助けることができるのかな…
わたしにできることって何なんだろうー…?
「1月の日本の行事を一緒に楽しむことだ」
1月の日本の行事を一緒に楽しむ…??
「それだけでいいんですか!?」
思ったより全然簡単そうだった。
1月を取り戻しにいくぞ!ぐらいの気持ちだったのに、1月を楽しもう!って感じだ。
「それだけというが、1月にはどんな行事があるかこよみは知っているのか?」
「え、どんな行事って…」
まずはお正月だよね?
お正月はおばあちゃんが作ってくれたおせちを食べて、初詣に行ってそれから…
「1月は31日まであるんだぞ、それじゃあ1日で終わりだ」
「わたしの考えてること読みました!?」
「読まなくてもわかる、そんな顔してた」
「…。」
でも確かに、そんなに気にしたことはなかったから。
日本の行事って何があるのかよくわからないかもしれない、クリスマスを楽しんじゃってる日本人だもんなぁ。
じゃあ、他に1月の行事は…
「元々睦月は我々の中で1番元気な奴なんだ」
ぐったりする睦月の前に極月様がしゃがみ込んだ。
「誰にでも話しかけていつでも笑顔を絶やさない、明るくて元気なお祭り男なんだよ」
「お、お祭り男!?」
「あぁ、うるさくて非常にうざったらしい奴なんだ」
隣にしゃがみ込んで極月様の顔を少しだけのぞき込んでみたらじぃっと睦月のことを見つめてた。
なんだ、極月様も心配してるんだ。
仲悪いのかなって思ってたけど、同じ暦の仲間だもんね。
このままじゃ不安になるよね。
「なのに最近の1月は寒過ぎて、その結果睦月がこんな状態なわけだ」
「なるほど…」
わたしも寒いのは苦手だもん、寒い日の朝なんかふとんから出るもの嫌だし。
雪が降ればうれしいけど、ただ寒いだけなのはしんどいもん。
「よし、七草がゆを作るか!」
すくっと極月様が立ち上がった。
「いろいろ派手なイベントのある1月だが、これだけ弱ってると七草がゆ辺りがいいだろう」
「七草がゆって名前の通り7種類の…」
草?を入れたおかゆだっけ?
学校でちょっと習ったけど、作ったことはないし食べたこともなくて。
「七草がゆは春の七草である、せり、なずな、ごきょう、はこべら、ほとけのざ、すずな、すずしろを入れたかゆのことだ」
「へぇー…」
どうしよう全く何のことかわからない、かぶとか大根とかあったような気がするけど7種類もわからない。どんなやつなのかも浮かんでこなくて。
「探しに行くか春の七草!」
「え、どこに行くんですか?」
「そりゃー…」
「……。」
「…。」
「…?」
「どっかに生えてるんじゃないか?」
「極月様もそんな感じなんですか!?」
なんと!?
極月様だけが頼りだったのに、もっと知ってると思った!ペラペラ七草の名前言ってたから…
えっと、どうしたらいいの?
まずはどんなものか調べた方がいいよね?
それでどこに生えてる…
生えてるのかな?どこでも生えてるものなの??
ほとけのざってご利益ありそうな名前だけど本当に生えてる!?
「おい」
わーわーわたしたちがうるさかったからか睦月が目を開けた。
あ、やばい起こしちゃったかなっ。
「それ…」
「「それ??」」
「スーパーで買える」
「「買えるんかぃ!!」」
極月様と声をそろえてつっ込んじゃった。
でもそれも知らなかった、七草がゆの七草って意外と簡単に手に入るんだ。
「よし、これで材料は揃ったな」
さっそくスーパーで買って来た春の七草とお米…だけでいいんだよね?
とりあえず台所に立ってエプロンを着けた。
その後ろで極月様が腕を組んで立っている。
さっきのこともそうだけど、たぶん…
極月様も作り方知らないな!?
おばあちゃんはまだ帰ってこないし、これはたぶんおしゃべり長引いてる…
スマホで調べようかな、調べたらわたしにでも作れるよね?
あんまり料理しないけどそんなに難しそうじゃないし、たぶん。
まずは七草を食べやすい大きさに切って…
「…!」
「そんな危なっかしい手で切れるかよ」
まな板の上に置いた大根の葉っぱを包丁で切ろうとしたらスッと手が伸びて来た。
「睦月…!」
初めて隣に立った姿を見て思った、背がすごく高くて手が大きいこと。
「貸せよ、オレがやる」
「え、でも!体調よくないなら…」
慣れた手つきで包丁を持った。
きっとわたしより上手く作れるんだろうけど、あんなにつらそうにしてたから…
「七草がゆなんてテンション上がるよな!」
ん?
ニカッと大きな口を開けてうれしそうに笑った、もう眉のしわもなくなってるし声だってハキハキしてた。
「正月の豪華な料理もいいんだけどさ~、七草たちのやさしいおかゆもたまらねぇよな~っ!!!」
あれ、さっきまでのしんどそうだった姿はどこいったの?
すごい元気そうで楽しそうなんだけど…
てゆーか声めちゃめちゃ大きいな!!!
「単純な奴め、もういつも通りか」
はぁっと極月様が息を吐いた。
もういつも通りって?
じゃあこれがいつもの睦月…?
そっか、行事を一緒に楽しむってそーゆうことなんだ!
「こよみ!オレが世界一うまい七草がゆ作ってやるから楽しみにしとけよ!!」
本当だ、すごく明るくて元気で誰にでも話しかけて…
だってわたしのこともうこよみって呼んでるもん。
あたりまえにこよみって。
笑いかけられたら、わたしもうれしくなっちゃって。
「睦月!わたしも手伝っていい?」
「おぅ、一緒に作ろうぜ!」
「私は作らない」
「お前には言ってねーよ」
睦月に教えてもらいながら七草がゆを作った。
そーいえば料理したのなんて初めてかもしれない、案外楽しいんだね。
「できたぜ!」
睦月がお茶碗によそってくれた。
春の七草しか入ってない、シンプルなおかゆだったけど…
おいしそう!すごくおいしそう!!
「こよみ、食べてくれ」
ぐいっと前に差し出される、まだあったかくていい匂いのしてる七草がゆが。
「でもこれは睦月のっ」
「こよみに食べてほしい」
「だけど…」
「じゃあ私がいただこう」
「師走は黙ってろ」
「その名で呼ぶなと何度も言っているだろうが!」
あ、また始まっちゃう!
元気になってもケンカは変わらないんだね!?
これ以上言い合いになる前にってスプーンを手に取った。
ひとくちすくって口に入れる、ふわーっと広がる七草たちが…
「おいし…い??」
思ってたより草なんだけど、全然草!シャキシャキする感じがさらに草!!
あ、でもせっかく作ってくれたのにこれじゃあ…っ
「所詮草だからな」
「極月様もっと言い方なかったですか!?」
もぐもぐと食べていた極月様がペロッとそんなこと言っちゃうから、わたしがドキドキしちゃった。
また睦月が怒ったらどうしようって…!
「それがいいんだよな~!草も生きてるって感じしてさ!」
なんて、思ったのに。
ケラッケラ声を出して笑ってた。
笑う時もそんな声出るんだって思った、それぐらい大きな笑い声で…
もうぐったりしてなくて、楽しそうに笑ってて。
その瞬間、ボンッと居間の方から音がした。
え、何!?今度は何が起きたの!?
急いで居間まで走った、さっきの音は何だったんだろう
って…
「あ、1月が戻ってる!」
12月しかなかったカレンダーに1月が増えてた、数字もちゃんとした1月が戻ってきてた。
これはきっと…
「睦月に笑顔が戻ったからな」
「極月様!」
やったぁ、戻って来た!
これで1月が来るし、誕生日も来て1つ大きくなれる。
よかった、カレンダーに1月が返って来た…!!
「睦月!」
「ありがとうな、こよみ!」
睦月が両手を出した、上にかかげてわたしの方に向けたからこれはと思ってパンッとハイタッチをしっ
「うぇーい!」
「う、うぇーい??」
ハイタッチはハイタッチでもめっちゃ軽いノリのハイタッチだった。
そうだお祭り男、よく見たらジャージも腰パンしてる陽キャだった、るんるんに鼻歌まで歌って1月ってこんな感じなんだ…
あ、でも年明けってテキトーな格好してダラダラこたつに入ってるよね。新しい年に気分も上がってるし、前向きにしてくれる月かも。
「助けてくれてありがとう、こよみ」
「極月様…、よかったですちゃんと戻って」
「さすが暦の世界の姫だ」
「あ、姫では…!」
ない、たぶん!
そんなこと聞いたことないしきっと人違いだよ!
だから…っ
「は?こよみって暦の世界の姫なの?」
鼻歌を口ずさみながら聞いてないようで聞いていた睦月が目をぱちくりさせた。
ほら、睦月だって知らなかったんだ!
私がお姫様なんてそんなわけ…っ
「じゃあオレの嫁になれよ」
……は?また何を言って?
「なるわけないだろう、睦月の嫁なんて」
そうです極月様!
それはさすがに話飛びすぎですよね!?
わたしがお嫁さんとか…
ありえないですよね!?
「こよみは私のものだ!」
は?
肩をつかんでぐいっと引き寄せられた、極月様の胸の中にトンッと…
え?
待って、え???
えぇぇーーーーーーーー!!?
「私の姫だ」
たぶん…
いや、絶対違いますぅぅぅぅーーーーーーー!!!
冬休みに入ったから大掃除ついでに来年のカレンダーを用意しようかなって、ペラッとめくった時だった。
「おばあちゃん大変!このカレンダー、12月しかないよ!」
まだ新品なのに1月から11月までごっそっとなくなってて12月しかなかった。
「こよちゃんどうしたの?カレンダーが12月しかないって」
「あのねおばあちゃん!見てよこれ、表紙をめくったらもう12月なの!おかしくない!?」
「あらほんと、どうしてかしらねぇ」
おばあちゃんにも12月しかないカレンダーを見せた。
誰かが使っちゃったのかなって思ったけど、この家にはわたしとおばあちゃんしかいないし今開けたばっかの新しいカレンダーに12月しかないってそんなことある?
「他のカレンダーにしよっかねぇ、12月しかないのは困るから」
そう言っておばあちゃんが棚から別のカレンダーを取り出した。
くるくる筒状になっていたカレンダーを開いてペラッと表紙ををめくった…んだけど。
「やっぱりない!」
このカレンダーにも12月しかなかった。
なんならこっちも、そっちも、どっちも、いくつもカレンダーを見てみたんだけどどのカレンダーも12月しかなかった。
なんで?どうして?
12月しかないんだろう??
「こよちゃん、おばあちゃん隣のお家に行って聞いてくるからねちょっと待っててね」
心配になったおばあちゃんがお隣さん家に出かけていった。
おばあちゃん家は和風なお家で、ちょっと古い。たたみばっかな部屋の中は歩き回るとみしみし音がする。
居心地はよくてわたしは気に入ってるけどね。
「うーん、どうしよっかな~…」
腕を組んでうーんと考える、どれを見ても12月しかない。
今年のカレンダーも12月だけ、来年のカレンダーも12月だけ…
なんでこんなことになったんだろう?
12月しかない来年のカレンダーを手に取った。
誰かのいたずらかな?
でも全部のカレンダーにいたずらするなんてないと思うし…
じゃあどうして?
12月しかないカレンダーはどうなるのかな…?
「まさか永遠に12月ってことないよね!?」
ずっとずっと12月しか来ないなんてこと、まさかないよね!!?
そんなの…っ
「まさかのその通りだ!」
持っていた12月のカレンダーが消えた、次の瞬間わたしの目の前にボンッと現れたのは…
「わっ、なに!?」
男の子…?
とにかく肌が白く透き通って、キリッと吊り上がった眉に切れ長の目、すぅーと透った鼻筋に、ツヤッとしたくちびる。
キラッと光る銀色の肩までかかる髪の毛をハーフアップにまとめて、背の高い真っ白のお坊さんのような服を着た…
誰!?
「おっ、久しぶりのこの姿の私もかなりイケてるな」
カレンダーの隣にかけてあった鏡に映った自分の姿を見てペロリと舌を出した。
うん、でもその通りなんだけどすっごくカッコよくて二度見しちゃったぐらいだしね。
キラキラまぶしくて、まるで真冬に降る粉雪みたいな…
「私の名前は極月だ、極月様と呼んでくれ」
なんか中身はあれな気がするけど。
じゃなくて何!?
急に12月のカレンダーがすごいカッコいい男の子になったんだけど!?
「こよみ、君に頼みがある」
ずいっと近づいた、まっすぐ目を見て。
え、てゆーかなんでわたしの名前…?
「今、暦の世界では大変なことになってるんだ」
「暦の世界…?」
って何のこと?
どの世界が大変なことになってるの?
いきなり言われてもちんぷんかんぷん…!
「暦とは時間の流れを年、月、週、日の単位に体系付けたもので、その体系を記したものがカレンダーだ」
「え、カレンダー!?」
それならわかる、今見てたし。
それで12月しかないって見てたら急にカレンダーが人間の男の子みたいになって…
「ここ最近の日本は春の花粉が多かったり、夏が異常に暑かったり、秋がほとんどなくてかと思えば冬は急にやって来る…っとまぁめちゃくちゃなんだ」
それは…なんとなくわたしも思ってた。
秋はいっぱい焼き芋とか甘栗とか楽しもうと思ってたのに、すぐに寒くなっちゃって今はおしるこがマイブームだもん。
「それに悩まされた奴らももうめちゃくちゃで…」
ん?
奴ら?
って誰のこと…
また知らない人たちが出てきた。
「だからこよみ、助けてほしい」
「え!?」
いきなりわたしの手をぎゅうっと両手で包み込むように握った。
冷たい手にちょっとびっくりしちゃった。
でもドキドキして、男の子に手を握られたのなんか初めてだったから。
「このままだとずーっと12月のままになってしまう!」
「それは困る!」
「困るだろう、そんなことになったら」
「困ります、すごく!」
だってわたしの誕生日は1月なんだもん、おばあちゃんがおいしいケーキ作ってくれるって言ったのに1月が来なかったら誕生日迎えられないよ。
あと無理かもだけど、誕生日プレゼントにはNintendo Switch 2を買ってもらえないかなって…
いや、それは厳しいってわかってるけど夢ね!夢だからね!?
「じゃあ引き受けてっ」
「待ってください!」
パッと手を離した。
どんどん話が進んじゃうから、確かに春夏秋冬めちゃくちゃなのはわかるしずっと12月のままなのも困る。
だから助けてって言われることはわからなくはないんだけど、1個どうしても気になることがあって…
「なんでわたしなんですか?」
どうしてわたしなんだろう?
どうしてわたしの名前を知ってたの?
なんで私が選ばれたの?
「こよみは暦の世界のお姫様だから!」
………え?
暦の世界のお姫様…??
「ずっと探していたよ!暦の世界を救ってくれるこよみを!」
「え、待って待って!ちょっと意味がわからないんですけど!」
わたしがお姫様?
そんなわけないよ、ただの中学生だよ!
おばあちゃんと2人暮らしの中学生だよ!?
「やっと見付けた」
にこっと笑う、笑ったお顔もカッコいいんだ。こんな人、学校にはいないかも。
「まさかこんなちんちくりんとは思わなかったけど」
うぉぉぉい!
失礼だな、ハハッて笑って失礼すぎでしょ!!
でも…
「こよみ頼む、引き受けてくれないか?」
右手を差し出された。
たぶんこれは握手かな?
わたしがその手を取ったら、引き受けることになるのかな…
少し不安はあるよ、突然そんなことを言われてわたしにできるのかなって。
「助けてくれたらそれなりの褒美をやる」
「え、褒美?」
ってご褒美ってこと?なにかもらえるの?
顔を上げて目を合わせた。そしたらくすっとほほ笑んだ。
「好きなだけ私の美貌を拝ませてやろう」
「……。」
めっちゃキメ顔で言われた。無駄にキラめいてる、フッてカッコつけて。
この人、自分のこと大好きなんだなぁ…
ってしみじみ思った。
「なんだ不満か?好きなだけだぞ、こんな光栄なことはないぞ?」
「あ、いえ…」
でもそれでやります!って別にならないっていうか、そもそも助けるって何したらいいかわかんないしやっぱ断ろうかな…
「ならば、これはどうだ?」
今度はなんだろう、一緒に写真でも撮らせてくれるの?それも全然ほしくなっ
「何でも願い事を1つ聞こう」
「え、願い事!?」
「あぁ、何でもこよみの叶えたい願いを聞いてやる」
「それって…ほしいものでもいいの?」
それはもしかして諦めてた夢が叶うってこと?わたしがほしがってた…
「もちろんだ」
Nintendo Switch 2が手に入るの!?
「やります!」
気付いたら手を取ってた。
ぎゅって握って、しっかり握手してた。
くすって笑う極月様と。
「ではさっそく、早々に1月が来てしまうからなあいつから呼ぶか」
極月様が胸元からカレンダーを取り出した。
あ、なんだ1月あるじゃんって思ったけどよく見たら日にちが3日から始まってたり、10日の次は12日になってたりめちゃくちゃな数字の並びしてた。
これは使い物にならなそうな1月のカレンダーだけど…
極月様がふわっと上に投げて手をかざした。
その瞬間もくもくとケムリが立ち込めてボンッとまた現れた、男の子が。
「いってぇなぁ、なにすんだよっ!」
今度は真っ赤な髪してる!赤い髪がツンツンしてる!
でも服はジャージだ、普通に黒のジャージ着てる!!
だけど、またカッコいい子だなぁ…
目つき悪くてちょっと怖そうだけど。
「なんだ、思ったより元気じゃないか」
「全然ッ元気じゃねぇよ!体はだるいしやる気は出ねぇし最悪だよ!」
呼び出された時にたたみで腰を打ったのかドカッと座ったままさすさすとなでていた。
「こよみ紹介しよう、こいつは1月の睦月だ。バカみたいにうるさくてどこにいても目立つ奴だ」
「バカってなんだ!ふざけんなよ!」
「他に紹介することがない」
そんでもって極月様とは仲が悪いっぽい、今にもケンカしそうな勢いでバチバチしてる。
「つーかオレに何の用だよ、師走…っ」
「その名で呼ぶな」
ぐいっと踏みつけてた、その場に踏み倒すみたいに。すごいつり上げた眉でにらみつけて。
え、そんなに気に入らなかった!?
てゆーか今、師走って言った?
極月様のこと…
「お前の名前は師走だろ!」
「違う極月だ!」
「またそうやって呼ばせてんだろ、どーせ」
「極月だって12月の名だ、間違いではない」
えっと、待って待って…
またわたしを置いてどんどん話が進んでいくんだけど?
まだ新しく増えた男の子のことも受け入れられてないのに。
「本当はこいつ師走って言うんだよ」
「違う、極月だ」
フンッと鼻を鳴らす極月様の足を払ってわたしの方を見た、のそっと起き上がりながら。
「坊さんが12月は忙しく走り回るから師走ってな」
へぇ、そうゆう意味があるんだ12月には。
年が明ける前にお参りとかちゃんとしておきたいもんね、わたしもおばあちゃんと必ず行ってるし。
「でもイキって極月なんて呼ばせてんだよ」
「イキってなんかない、極月だって私の名だ!」
「師走もお前の名だろーが!」
「その名前で呼ぶな!!」
「あーっ、わかりましたわかりました!」
今にもケンカしそうな雰囲気だったのがケンカに変わりそうな予感がしてあわてて間に入った。うちの中でそんなことされたら困るから。
「極月様は極月様です!」
って一応言っておいたんだけど、全然止まらなくて。
「様とか言わせてんなよ」
「私には必要な敬称だ」
「師走のくせに」
「なんだと!」
「もうやめて!!」
家中にひびく声で叫んじゃった。おばあちゃんいなくてよかった、びっくりしてたよねきっと。
「どちらも名前ならわたしは極月様って呼ぶんで…」
でもそんなにわーわー言われるとちょっと気になっちゃって、チラッと極月様を見ながら聞いてみた。
「なんで師走って呼ばれるのが嫌なんですか?」
変なあだ名とかだったらね、その気持ちもわかるけど自分の名前が嫌なんてそれは少し可哀そう…
「この美貌にお坊さんは似合わない」
「……。」
あ、なんか心配して損した。
全然可哀そうじゃなかった、そうだこの人自分大好きだった。
「あー…くそっ、だりぃな~…」
ごろんとたたみの上に転がった。
「あの睦月さんっ」
「睦月でいい、こんな奴呼び捨てでいい」
「……。」
「別に睦月でいいけど」
くたっと倒れ込んで仰向けになって目を閉じた。
しわの寄った眉がわずらわしそうで、本当に体調がよくなさそう…
大丈夫かな?
「極月様、わたしは何をすればいいんですか?」
倒れ込む睦月の前で、隣に立つ極月様を見上げた。
助けてほしいって言われたけど何をすればいいのかまだ聞いてない、わたしに助けることができるのかな…
わたしにできることって何なんだろうー…?
「1月の日本の行事を一緒に楽しむことだ」
1月の日本の行事を一緒に楽しむ…??
「それだけでいいんですか!?」
思ったより全然簡単そうだった。
1月を取り戻しにいくぞ!ぐらいの気持ちだったのに、1月を楽しもう!って感じだ。
「それだけというが、1月にはどんな行事があるかこよみは知っているのか?」
「え、どんな行事って…」
まずはお正月だよね?
お正月はおばあちゃんが作ってくれたおせちを食べて、初詣に行ってそれから…
「1月は31日まであるんだぞ、それじゃあ1日で終わりだ」
「わたしの考えてること読みました!?」
「読まなくてもわかる、そんな顔してた」
「…。」
でも確かに、そんなに気にしたことはなかったから。
日本の行事って何があるのかよくわからないかもしれない、クリスマスを楽しんじゃってる日本人だもんなぁ。
じゃあ、他に1月の行事は…
「元々睦月は我々の中で1番元気な奴なんだ」
ぐったりする睦月の前に極月様がしゃがみ込んだ。
「誰にでも話しかけていつでも笑顔を絶やさない、明るくて元気なお祭り男なんだよ」
「お、お祭り男!?」
「あぁ、うるさくて非常にうざったらしい奴なんだ」
隣にしゃがみ込んで極月様の顔を少しだけのぞき込んでみたらじぃっと睦月のことを見つめてた。
なんだ、極月様も心配してるんだ。
仲悪いのかなって思ってたけど、同じ暦の仲間だもんね。
このままじゃ不安になるよね。
「なのに最近の1月は寒過ぎて、その結果睦月がこんな状態なわけだ」
「なるほど…」
わたしも寒いのは苦手だもん、寒い日の朝なんかふとんから出るもの嫌だし。
雪が降ればうれしいけど、ただ寒いだけなのはしんどいもん。
「よし、七草がゆを作るか!」
すくっと極月様が立ち上がった。
「いろいろ派手なイベントのある1月だが、これだけ弱ってると七草がゆ辺りがいいだろう」
「七草がゆって名前の通り7種類の…」
草?を入れたおかゆだっけ?
学校でちょっと習ったけど、作ったことはないし食べたこともなくて。
「七草がゆは春の七草である、せり、なずな、ごきょう、はこべら、ほとけのざ、すずな、すずしろを入れたかゆのことだ」
「へぇー…」
どうしよう全く何のことかわからない、かぶとか大根とかあったような気がするけど7種類もわからない。どんなやつなのかも浮かんでこなくて。
「探しに行くか春の七草!」
「え、どこに行くんですか?」
「そりゃー…」
「……。」
「…。」
「…?」
「どっかに生えてるんじゃないか?」
「極月様もそんな感じなんですか!?」
なんと!?
極月様だけが頼りだったのに、もっと知ってると思った!ペラペラ七草の名前言ってたから…
えっと、どうしたらいいの?
まずはどんなものか調べた方がいいよね?
それでどこに生えてる…
生えてるのかな?どこでも生えてるものなの??
ほとけのざってご利益ありそうな名前だけど本当に生えてる!?
「おい」
わーわーわたしたちがうるさかったからか睦月が目を開けた。
あ、やばい起こしちゃったかなっ。
「それ…」
「「それ??」」
「スーパーで買える」
「「買えるんかぃ!!」」
極月様と声をそろえてつっ込んじゃった。
でもそれも知らなかった、七草がゆの七草って意外と簡単に手に入るんだ。
「よし、これで材料は揃ったな」
さっそくスーパーで買って来た春の七草とお米…だけでいいんだよね?
とりあえず台所に立ってエプロンを着けた。
その後ろで極月様が腕を組んで立っている。
さっきのこともそうだけど、たぶん…
極月様も作り方知らないな!?
おばあちゃんはまだ帰ってこないし、これはたぶんおしゃべり長引いてる…
スマホで調べようかな、調べたらわたしにでも作れるよね?
あんまり料理しないけどそんなに難しそうじゃないし、たぶん。
まずは七草を食べやすい大きさに切って…
「…!」
「そんな危なっかしい手で切れるかよ」
まな板の上に置いた大根の葉っぱを包丁で切ろうとしたらスッと手が伸びて来た。
「睦月…!」
初めて隣に立った姿を見て思った、背がすごく高くて手が大きいこと。
「貸せよ、オレがやる」
「え、でも!体調よくないなら…」
慣れた手つきで包丁を持った。
きっとわたしより上手く作れるんだろうけど、あんなにつらそうにしてたから…
「七草がゆなんてテンション上がるよな!」
ん?
ニカッと大きな口を開けてうれしそうに笑った、もう眉のしわもなくなってるし声だってハキハキしてた。
「正月の豪華な料理もいいんだけどさ~、七草たちのやさしいおかゆもたまらねぇよな~っ!!!」
あれ、さっきまでのしんどそうだった姿はどこいったの?
すごい元気そうで楽しそうなんだけど…
てゆーか声めちゃめちゃ大きいな!!!
「単純な奴め、もういつも通りか」
はぁっと極月様が息を吐いた。
もういつも通りって?
じゃあこれがいつもの睦月…?
そっか、行事を一緒に楽しむってそーゆうことなんだ!
「こよみ!オレが世界一うまい七草がゆ作ってやるから楽しみにしとけよ!!」
本当だ、すごく明るくて元気で誰にでも話しかけて…
だってわたしのこともうこよみって呼んでるもん。
あたりまえにこよみって。
笑いかけられたら、わたしもうれしくなっちゃって。
「睦月!わたしも手伝っていい?」
「おぅ、一緒に作ろうぜ!」
「私は作らない」
「お前には言ってねーよ」
睦月に教えてもらいながら七草がゆを作った。
そーいえば料理したのなんて初めてかもしれない、案外楽しいんだね。
「できたぜ!」
睦月がお茶碗によそってくれた。
春の七草しか入ってない、シンプルなおかゆだったけど…
おいしそう!すごくおいしそう!!
「こよみ、食べてくれ」
ぐいっと前に差し出される、まだあったかくていい匂いのしてる七草がゆが。
「でもこれは睦月のっ」
「こよみに食べてほしい」
「だけど…」
「じゃあ私がいただこう」
「師走は黙ってろ」
「その名で呼ぶなと何度も言っているだろうが!」
あ、また始まっちゃう!
元気になってもケンカは変わらないんだね!?
これ以上言い合いになる前にってスプーンを手に取った。
ひとくちすくって口に入れる、ふわーっと広がる七草たちが…
「おいし…い??」
思ってたより草なんだけど、全然草!シャキシャキする感じがさらに草!!
あ、でもせっかく作ってくれたのにこれじゃあ…っ
「所詮草だからな」
「極月様もっと言い方なかったですか!?」
もぐもぐと食べていた極月様がペロッとそんなこと言っちゃうから、わたしがドキドキしちゃった。
また睦月が怒ったらどうしようって…!
「それがいいんだよな~!草も生きてるって感じしてさ!」
なんて、思ったのに。
ケラッケラ声を出して笑ってた。
笑う時もそんな声出るんだって思った、それぐらい大きな笑い声で…
もうぐったりしてなくて、楽しそうに笑ってて。
その瞬間、ボンッと居間の方から音がした。
え、何!?今度は何が起きたの!?
急いで居間まで走った、さっきの音は何だったんだろう
って…
「あ、1月が戻ってる!」
12月しかなかったカレンダーに1月が増えてた、数字もちゃんとした1月が戻ってきてた。
これはきっと…
「睦月に笑顔が戻ったからな」
「極月様!」
やったぁ、戻って来た!
これで1月が来るし、誕生日も来て1つ大きくなれる。
よかった、カレンダーに1月が返って来た…!!
「睦月!」
「ありがとうな、こよみ!」
睦月が両手を出した、上にかかげてわたしの方に向けたからこれはと思ってパンッとハイタッチをしっ
「うぇーい!」
「う、うぇーい??」
ハイタッチはハイタッチでもめっちゃ軽いノリのハイタッチだった。
そうだお祭り男、よく見たらジャージも腰パンしてる陽キャだった、るんるんに鼻歌まで歌って1月ってこんな感じなんだ…
あ、でも年明けってテキトーな格好してダラダラこたつに入ってるよね。新しい年に気分も上がってるし、前向きにしてくれる月かも。
「助けてくれてありがとう、こよみ」
「極月様…、よかったですちゃんと戻って」
「さすが暦の世界の姫だ」
「あ、姫では…!」
ない、たぶん!
そんなこと聞いたことないしきっと人違いだよ!
だから…っ
「は?こよみって暦の世界の姫なの?」
鼻歌を口ずさみながら聞いてないようで聞いていた睦月が目をぱちくりさせた。
ほら、睦月だって知らなかったんだ!
私がお姫様なんてそんなわけ…っ
「じゃあオレの嫁になれよ」
……は?また何を言って?
「なるわけないだろう、睦月の嫁なんて」
そうです極月様!
それはさすがに話飛びすぎですよね!?
わたしがお嫁さんとか…
ありえないですよね!?
「こよみは私のものだ!」
は?
肩をつかんでぐいっと引き寄せられた、極月様の胸の中にトンッと…
え?
待って、え???
えぇぇーーーーーーーー!!?
「私の姫だ」
たぶん…
いや、絶対違いますぅぅぅぅーーーーーーー!!!


