激重シスコン皇帝は、勝ち気な姫に陥落する
雨の中、
軍港に向かって歩く二人。

ビンセントは濡れたルチアの肩に
さっと外套をかけた。
「寒くなる。これを着ておけ。」

今までの荒っぽさが嘘のように、
丁寧で優しい。

ルチアの喉がつまる。
「……ありがとう、ビンセント。」

声が震えた。
その顔を見たビンセントが、
一瞬だけ柔らかく微笑む。
「お前のためなら、どんな海でも越えてやる。」

ドクン、とルチアの心臓が跳ねた。
——この人の隣なら、怖くないかもしれない。
——この帝国でも、生きていけるかもしれない。
初めてそう思えた瞬間だった。

ルチアやビンセントを乗せた軍艦は
帝都を離れ、
怒りを含んだような暗い海へと滑り出した。
甲板には冷たい潮風が吹きつけ、
空はどんよりと厚い雲に覆われている。

ルチアの胸は
祖国への不安で押しつぶされそうだった。
船縁につかまって海を見つめていると、
ビンセントが後ろからそっと抱きしめる。

「寒いだろ。風が強い、危ない。こっちに来い。」

低い声がいつになく優しい。
ルチアは振り返り、
その真剣な眼差しに胸がぎゅっと掴まれた。
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