気まぐれヒーロー3



「アイツはな──」



ふいに、ケイジくんの顔から笑みがすっと落ちた。

水面に揺蕩(たゆた)う落ち葉みたいに、静かに言葉が続く。



「ずっと父親に虐待されとったんよ」



その瞬間、一陣の風が吹き抜けた。

緑葉がザワザワと不穏な音を奏で、私の胸のざわめきを煽る。


ケイジくんの真っ直ぐな眼差しに縛られ、心臓をぎゅっと掴まれたみたいで。

震えそうになるのを、必死でこらえた。


頭に浮かぶのは──

意地悪く笑う、ハイジ。

嫌味ばっかり言って、私をからかうハイジがいる。


自信家で、いつも余裕ぶって、短気で、弱味を人に見せたがらない。

堂々として、強さを誇示しようとする。


だけど本当は、優しくて温かい人だっていうことも……知ってる。



「待って、虐待って……」



ほんの一瞬だけ見せる、寂しげな表情も知ってる。

ふざけてみせたって、しっかりと物事を見据えてるのも。



「じゃあ……あの、背中の火傷も……?」



声がしゃんとしなくて、か細く揺れる。


聞いてはいた。

お父さんが、お酒に溺れてること。


でも──。



「ももちゃん……なんで知ってんの?アイツの背中の火傷って……え、もしかしてそーいう関係──」

「ち、違う違う!!とんだ誤解よ、それは!!」



ケイジくんのあからさまな疑いの目に、私は身を乗り出して反論していた。

いや、ケイジくんわかってて言ってんだろうけどね。

「ふ~ん」とか言いつつ、ニヤついてるし。


こーいうとこ、ハイジそっくりなんだよね。



「ま、当たりやけどな」



冷や汗をかく私の横で、赤い髪の彼は平然と言い放つ。


それが悲しかった。

あのハイジだから。


私をおもちゃにして笑う、あの意地悪なハイジが。
実の父親にどんな仕打ちを受けていたのか。

どれほど辛い思いをしていたのか。


想像もつかない。

今まで私が見てきたハイジからは、とても……。




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