気まぐれヒーロー3
ふと隣を見ると、ケイジくんが何気なくTシャツの袖をまくり上げていた。
別にその行為自体は全然おかしいことじゃない。
ただ暑かっただけなんだろう。
だけど──
「ケイジくん……それ……」
私は目を見張ったまま、動けなかった。
彼の“ある一点”に、視線を留めたまま。
「ん?……ああ、そっか。ももちゃん、コレ見んの初めてやったっけ」
ケイジくんは、変わらない調子で言う。
表情もいつものまま。
けれど、彼の左肩に刻まれたそれは……タトゥー。
翼を広げた鳥の、片羽に見える模様。
──黒い、片翼。
まるで、鷹の片翼を切り取ったかのようなデザインだ。
けれど私が息を呑んだのは、タトゥーそのものじゃない。
その“下”にあるもの。
タトゥーは、深くえぐられた傷跡の形に沿って彫られていた。
その“傷”を隠すかのように。
「これな、ハイジに刺された跡」
ケイジくんは、タトゥーを見つめながらそう言った。
「刺された跡、って……」
空は晴れているのに、胸の中だけ鉛色に沈む。
頬を掠める風が、なんだか冷たかった。
ハイジより少し細い彼の腕に走るその傷は、ふざけてついたような軽いものではない。
近くで見なければ、タトゥーに紛れて気づかないだろうけど──
いまの距離なら、はっきりとわかる。
長い時間が経っているはずなのに、皮膚を裂いた痕はまだ痛々しく牙をむいていた。
ハイジが……ケイジくんを刺した?
どうして?
兄弟なのに。
血を分けた家族なのに。
二人は、冗談言い合って笑ったりしてたのに。
……でも。
私はどことなく、感づいていた。
二人のもっと奥に、深い闇があること。
互いが背中を向けたまま、同じ場所に立っていることを。