花は通る、恋もまた―――未来へ続く45分
通過の条件
壁のタイマーが『05:00』を示した。
数字が減っていく度に、芹葉の胸の鼓動も強くなる。
顕微鏡室の空気は張り詰め、冷蔵区画の冷気が肌を刺す。
蒼志が記録用紙に視線を落とし、淡々と告げた。
「リスクは極小。条件付ければ、市場流通に支障なし」
ペン先が紙を走る音が、白光の中で乾いた響きを立てる。
芹葉は息を止めた。
『市場流通に支障なし』
その言葉が、胸の奥で何度も反響する。
「条件付き許可」
タイマーが『02:00』で止まる。
数字も時間も、そこで止まった。
記録室に移動すると、空気が少し柔らかくなった。
蒼志がホワイトボードの横に立ち、手書きの衛生管理図を描き始める。
入口から作業台、水場、廃棄、冷蔵、陳列へ。
線が一筆書きで走り、未来の店内が形を成す。
「これは業務外だ。……でも、君が守れると知ってるから」
芹葉は受け取りながら、小さく笑った。
「明日から、新しい店で貼ります」
蒼志が小さく頷き、モニタリング表のテンプレを差し出す。
無菌手袋越しに触れた紙の感触が、芹葉の指先に伝わった。
胸の奥が熱くなる。
「ありがとう、朔さん」
名を呼んだ瞬間、視線が交わった。
無菌フードが距離を保つ。
それでも心は近づいた。
白光が少し暖かく見えた。
扉が開く音が響く。
「搬出許可します」
現場の時間が再始動する。
芹葉は台車のハンドルを握る手に力を込めた。
『通った』の意味は二重だった。
花が通り、そして自分も。