花は通る、恋もまた―――未来へ続く45分
通過の条件

 壁のタイマーが『05:00』を示した。
 数字が減っていく度に、芹葉の胸の鼓動も強くなる。

 顕微鏡室の空気は張り詰め、冷蔵区画の冷気が肌を刺す。

 蒼志が記録用紙に視線を落とし、淡々と告げた。

「リスクは極小。条件付ければ、市場流通に支障なし」

 ペン先が紙を走る音が、白光の中で乾いた響きを立てる。
 芹葉は息を止めた。

『市場流通に支障なし』

 その言葉が、胸の奥で何度も反響する。

「条件付き許可」

 タイマーが『02:00』で止まる。
 数字も時間も、そこで止まった。


 記録室に移動すると、空気が少し柔らかくなった。
 蒼志がホワイトボードの横に立ち、手書きの衛生管理図を描き始める。

 入口から作業台、水場、廃棄、冷蔵、陳列へ。
 線が一筆書きで走り、未来の店内が形を成す。

「これは業務外だ。……でも、君が守れると知ってるから」

 芹葉は受け取りながら、小さく笑った。

「明日から、新しい店で貼ります」

 蒼志が小さく頷き、モニタリング表のテンプレを差し出す。
 無菌手袋越しに触れた紙の感触が、芹葉の指先に伝わった。

 胸の奥が熱くなる。

「ありがとう、朔さん」

 名を呼んだ瞬間、視線が交わった。
 無菌フードが距離を保つ。
 それでも心は近づいた。

 白光が少し暖かく見えた。
 扉が開く音が響く。

「搬出許可します」

 現場の時間が再始動する。

 芹葉は台車のハンドルを握る手に力を込めた。

『通った』の意味は二重だった。
 花が通り、そして自分も。
< 10 / 11 >

この作品をシェア

pagetop