危険すぎる恋に、落ちてしまいました。番外編
校庭の雪が溶けきらない朝。
淡い光が、どこか甘い予感をまとって美羽の肩を照らしていた。
けれど――この日、黒薔薇学園に集まる“甘さ”はチョコレートのものだけではなかった。
*
美羽は下駄箱の前でスマホを耳に当てていた。
「椿くん?私、今下駄箱のところにいるよ。上靴ないと入れないじゃん?
……てか、今日って学校あるよね?誰もいないんだけど……?」
電話の向こうで、椿の声が一気に荒れる。
『は!?美羽、おい!上靴のままでいいから、そこから離れろ!!いいか、今すぐ裏ルートに――』
「え?ちょっと、椿くん慌てすぎじゃ……みんなはどこ――」
その瞬間。
背中に、ヒタ……ヒタ……と複数の足音。
美羽は恐る恐る振り返る。
「あ、雨宮さんっ!!僕のチョコ、受け取ってください!!」
「美羽さん、ずっと、好きでした!!」
「雨宮さん!!俺の本命チョコを!!」
「美羽さま……!どうか僕たちを!虐げてください!!」
なぜか最終的にひとりだけ願望が危険な方向に行っていた。
美羽は、血の気が引いていく。
(……え?なにこれ?どゆこと?何かの勧誘?いや、てかみんなチョコ持ってるんだけど!?)
スマホからは椿の怒声が響く。
『美羽!?返事しろ、美羽!!』
「し、してるけど!!てか、皆怖いんだけどぉぉぉお!!」
美羽は紙袋を抱え、全力で走り出した。
「ご、ごめんなさぁい!!私急いでるんですぅぅ!!」
追いかける男子生徒たちの足音。
鳴り響く「美羽さまぁぁ!!!」の叫び。
雪解けの地面に、靴音と悲鳴が交錯する。
*
同時刻、生徒会室前。
「ちっ、美羽のやつ!」
といってスマホの電話を切り、急いで動きだす椿を
「ちょっと!椿!!そっちはだめだって!!」と悠真は必死に止めるが、「うるせぇ!」と椿は扉の前に行く。
そして、椿が生徒会室の扉を開け放った刹那――
「「「きゃぁぁぁああ!!!椿様~~~!!!」」」
凄まじい勢いで女子生徒の波が押し寄せた。
椿「……は?」
一拍の静寂。
次の瞬間、津波のようにチョコと悲鳴に襲われた。
「椿様ぁぁ!!受け取ってください!!」
「私の本命チョコですぅぅ!!」
椿は顔をしかめ「ちっ……やられた!」と焦っていた。
後方では悠真が悲鳴。
「だから開けちゃダメって言ったじゃん椿ぃぃ!!」
遼は押し寄せる女子に揉まれながら叫ぶ。
「ミッションの意味ねぇじゃん!!誰だよ接着剤塗ったやつ!!」
玲央は冷静に流されつつ眼鏡がズレていた。
「学園の女子人口は把握していたが……これは誤算だな……っ」
「学園の女子、恐るべしです…」
碧はテーブル下に隠れたが、すぐに見つかった。
「みーつけた♡碧さまぁぁぁ!」
「ひ、ひええええ!!近寄らないでくださいぃぃ!!」
もはや軽いホラーである。
悠真は壁に押しつけられながら叫んだ。
「椿っ!!ここは僕達が押さえるから!!行ってぇぇ!!」
椿は低く笑った。
「悠真、すまねぇ!後で焼き肉奢る!!」
「ほんとに!?絶対だかんね!!うわぁ押されるぅ!!」
椿は女子の波をすり抜け、廊下に飛び出した。
「あ!!椿くんが逃げたわよーー!!」
「追えーーー!!」
女子生徒の熱狂が地響きのように続く。
椿は廊下を全速力で駆けながら叫んだ。
「俺は美羽からしか貰わねぇよ!!!」
「「「きゃー!!椿様ぁぁ!!その一途さが最高っ!!!」」」
「いや、なんで好感度が上がってんだよっ……!」
もはや逃走劇である。
*
その頃、校舎裏の階段。
美羽は男子を数名ほど軽く気絶させ、息を切らして走り続けていた。
「ちょっと……なんなのこれ!?こんなバレンタイン……聞いてないんだけど!!」
心臓はバクバク、手は汗ばんでいる。
「もー!!椿くーーん!!助けてぇええ!!」
雪解けの光を反射して、彼女の影だけが必死に伸びていく。
その声は、廊下の向こうで走る“黒薔薇の王”にも確かに届いていた。
椿は息を切らしながら呟いた。
「……待ってろよ、美羽。」
こうして――
黒薔薇学園史上、最も混沌としたバレンタインは
まだ始まったばかりだった。
淡い光が、どこか甘い予感をまとって美羽の肩を照らしていた。
けれど――この日、黒薔薇学園に集まる“甘さ”はチョコレートのものだけではなかった。
*
美羽は下駄箱の前でスマホを耳に当てていた。
「椿くん?私、今下駄箱のところにいるよ。上靴ないと入れないじゃん?
……てか、今日って学校あるよね?誰もいないんだけど……?」
電話の向こうで、椿の声が一気に荒れる。
『は!?美羽、おい!上靴のままでいいから、そこから離れろ!!いいか、今すぐ裏ルートに――』
「え?ちょっと、椿くん慌てすぎじゃ……みんなはどこ――」
その瞬間。
背中に、ヒタ……ヒタ……と複数の足音。
美羽は恐る恐る振り返る。
「あ、雨宮さんっ!!僕のチョコ、受け取ってください!!」
「美羽さん、ずっと、好きでした!!」
「雨宮さん!!俺の本命チョコを!!」
「美羽さま……!どうか僕たちを!虐げてください!!」
なぜか最終的にひとりだけ願望が危険な方向に行っていた。
美羽は、血の気が引いていく。
(……え?なにこれ?どゆこと?何かの勧誘?いや、てかみんなチョコ持ってるんだけど!?)
スマホからは椿の怒声が響く。
『美羽!?返事しろ、美羽!!』
「し、してるけど!!てか、皆怖いんだけどぉぉぉお!!」
美羽は紙袋を抱え、全力で走り出した。
「ご、ごめんなさぁい!!私急いでるんですぅぅ!!」
追いかける男子生徒たちの足音。
鳴り響く「美羽さまぁぁ!!!」の叫び。
雪解けの地面に、靴音と悲鳴が交錯する。
*
同時刻、生徒会室前。
「ちっ、美羽のやつ!」
といってスマホの電話を切り、急いで動きだす椿を
「ちょっと!椿!!そっちはだめだって!!」と悠真は必死に止めるが、「うるせぇ!」と椿は扉の前に行く。
そして、椿が生徒会室の扉を開け放った刹那――
「「「きゃぁぁぁああ!!!椿様~~~!!!」」」
凄まじい勢いで女子生徒の波が押し寄せた。
椿「……は?」
一拍の静寂。
次の瞬間、津波のようにチョコと悲鳴に襲われた。
「椿様ぁぁ!!受け取ってください!!」
「私の本命チョコですぅぅ!!」
椿は顔をしかめ「ちっ……やられた!」と焦っていた。
後方では悠真が悲鳴。
「だから開けちゃダメって言ったじゃん椿ぃぃ!!」
遼は押し寄せる女子に揉まれながら叫ぶ。
「ミッションの意味ねぇじゃん!!誰だよ接着剤塗ったやつ!!」
玲央は冷静に流されつつ眼鏡がズレていた。
「学園の女子人口は把握していたが……これは誤算だな……っ」
「学園の女子、恐るべしです…」
碧はテーブル下に隠れたが、すぐに見つかった。
「みーつけた♡碧さまぁぁぁ!」
「ひ、ひええええ!!近寄らないでくださいぃぃ!!」
もはや軽いホラーである。
悠真は壁に押しつけられながら叫んだ。
「椿っ!!ここは僕達が押さえるから!!行ってぇぇ!!」
椿は低く笑った。
「悠真、すまねぇ!後で焼き肉奢る!!」
「ほんとに!?絶対だかんね!!うわぁ押されるぅ!!」
椿は女子の波をすり抜け、廊下に飛び出した。
「あ!!椿くんが逃げたわよーー!!」
「追えーーー!!」
女子生徒の熱狂が地響きのように続く。
椿は廊下を全速力で駆けながら叫んだ。
「俺は美羽からしか貰わねぇよ!!!」
「「「きゃー!!椿様ぁぁ!!その一途さが最高っ!!!」」」
「いや、なんで好感度が上がってんだよっ……!」
もはや逃走劇である。
*
その頃、校舎裏の階段。
美羽は男子を数名ほど軽く気絶させ、息を切らして走り続けていた。
「ちょっと……なんなのこれ!?こんなバレンタイン……聞いてないんだけど!!」
心臓はバクバク、手は汗ばんでいる。
「もー!!椿くーーん!!助けてぇええ!!」
雪解けの光を反射して、彼女の影だけが必死に伸びていく。
その声は、廊下の向こうで走る“黒薔薇の王”にも確かに届いていた。
椿は息を切らしながら呟いた。
「……待ってろよ、美羽。」
こうして――
黒薔薇学園史上、最も混沌としたバレンタインは
まだ始まったばかりだった。