月夜の呪われ王子と追放王妃~力のない聖女などいらないと厄介払いしたのをお忘れですか? 辺境の地で幸せを掴みましたので、今さら謝られても戻りません
 本来なら聖なる輝きを放つはずの紋はところどころ黒く染まり、ひび割れている。まるで内側から蝕まれているようだった。
 レオナールは手を掲げ、低く呪文を唱えはじめた。――が、次の瞬間、空気が震える。
 足元の地面が呻いた。
 轟音とともに、裂け目の奥から黒い瘴気が噴き上がる。夜の空を引き裂くように、巨大な影が姿を現した。
 獣のような四肢、鱗に覆われた体、赤く燃える双眸。魔獣、それも通常のものよりはるかに強大な存在だった。

 「下がれ、エリオット」

 低い声を響かせる。
 だが次の瞬間には、エリオットが前に躍り出ていた。

 「レオナールを傷つけさせるわけにはいかない!」

 剣が風を裂く。銀の軌跡が夜闇を切り裂き、魔獣の前足を断ち切った。
 黒い瘴気がその傷口を包み込み、瞬く間に再生する。

 「ちっ、瘴の核を持つ個体か!」

 エリオットが舌打ちをした瞬間、魔獣の尾がしなる。鞭のような尾が空気を裂き、地を抉る。
 エリオットは剣を交差させて受け止めたが、その衝撃で大地に叩きつけられた。砂塵が舞い、視界が揺らぐ。

 「……やれやれ」
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