月夜の呪われ王子と追放王妃~力のない聖女などいらないと厄介払いしたのをお忘れですか? 辺境の地で幸せを掴みましたので、今さら謝られても戻りません
 声を振り絞るが、やはり誰もなにも答えない。
 エミリアは立ち上がることはせず、静かに馬車の揺れに身を任せながら周囲の黒衣たちの動きを観察する。
 その中で、ある確信が芽生えた。

 「……王家の命……よね。間違いない……」

 彼らの装いからそう察知した。

 「陛下の命令なの?」

 エミリアが王妃の座を断ったから、こうして手荒な真似をして連れ戻しているのではないか。
 馬車の揺れに合わせて、エミリアは小さく身を震わせた。
 黒衣の者たちは言葉を発さず、ただ黙って周囲を囲む。その沈黙は恐怖よりも重く、胸にずしりと圧し掛かる。

 「どうして私を?」
 「おとなしく黙っていれば乱暴な真似はしない」

 ひとりが、やっと低く声を出した。しかしエミリアが欲しい答えはなにひとつくれない。
 きっと、いくら聞いたところで答えてくれないだろう。
 エミリアはぎゅっと強く目を閉じた。

 (大丈夫……冷静になるのよ……)

 自分に言い聞かせ、心を落ち着ける。揺れる馬車の中で手を膝に置き、深呼吸を繰り返す。祈るように胸の奥で言葉を紡ぐ以外にない。
 エミリアは背筋を伸ばし、恐怖に屈するまいと心の中で自分に言い聞かせた。
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