月夜の呪われ王子と追放王妃~力のない聖女などいらないと厄介払いしたのをお忘れですか? 辺境の地で幸せを掴みましたので、今さら謝られても戻りません
 やがて車輪が止まる。長い沈黙のあと、外で鎖の外れる音がした。
 扉が開き、夜の冷気が流れ込む。馬車の中の空気が一気に張り詰めた。

 「着いた。降りてもらおう」

 低く押し殺した声が命じる。
 エミリアは怯えを押し隠し、震える手でスカートの裾を握った。
 外へ出ると、そこは見慣れた王宮だった。しかしここだけは月明かりが届かないほど高い城壁に囲まれ、風の音すら吸い込まれるような静寂が漂っている。
 目の前に広がるのは、王宮の庭の裏手だった。かつてエミリアが花を摘んでいた中庭のさらに奥。人の手も入らず、荒れ果てた石畳と枯れた噴水だけが残っている。
 黒衣の者たちが無言で先を行く。
 そのうちのひとりが蔦に覆われた壁の一角に手を伸ばし、石を押し込んだ。
 ごり、と重い音がする。苔むした壁がわずかにずれ、暗い口を開いた。

 (こんなところに、通路が……?)

 エミリアは目を瞬かせた。中から淀んだ空気が漂ってくる。

 「行け」 

 黒衣の男が短く言う。
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