月夜の呪われ王子と追放王妃~力のない聖女などいらないと厄介払いしたのをお忘れですか? 辺境の地で幸せを掴みましたので、今さら謝られても戻りません
男はひと言そう呟くと、暖炉の火を見つめた。
燃える薪の爆ぜる音が、沈黙を区切る。
やがて彼はゆっくりと顔を上げ、エミリアを見つめた。
「怯えてはいないのか。呪われた王子のもとに嫁ぐことを」
穏やかに問われ、エミリアは唇を結んだ。
王都で散々流れた噂が脳裏をよぎる。目の前の男は魔獣討伐の際にかけられた呪いにより、昼は醜い老人、夜はさらに異形に化すという。
だが、彼の声には恐怖を誘う響きなどなかった。ただ、深い哀しみと静かな慈しみが混じっている。
「恐ろしくは、ありません」
「なぜだ?」
「殿下の目が……嘘を言わない方のものだからです」
その言葉にレオナールは一瞬、息を呑んだ。
重い空気を割るように、暖炉がぱちりと火の粉を散らす。
やがてレオナールは静かに微笑んだ。
「遠路をようこそ。我が名はレオナール・アルタミラ。そなたをここに迎えるよう、王命を受けている」
声は低く、枯れてはいるが、不思議と威厳があった。