月夜の呪われ王子と追放王妃~力のない聖女などいらないと厄介払いしたのをお忘れですか? 辺境の地で幸せを掴みましたので、今さら謝られても戻りません
 カーリンはセルジュに「行ってきます」と告げ、ふたりに続いて馬車に乗り込んだ。身の回りの世話をするために彼女も同行してもらうことにしていた。あちらでも侍女は用意されているかもしれないが、ルーベンやバネッサの息がかかった人間は信用できない。
 カーリンに続いてシルバがステップに足をかけたため、エミリアは急いで「あなたはお留守番よ」と制した。

 「街への買い物のとき同様、寂しい思いをさせるけれど……王都は遠いし、危険かもしれないの」

 そう言うと銀の毛並みの大きな聖獣は、しばらくその場でじっとエミリアを見つめていた。そして次の瞬間、シルバの体がやわらかな光に包まれる。
 風がひと筋、花びらを舞い上げた。
 光が収まったとき、そこに立っていたのは手のひらに乗るほどの小さな銀の獣だった。
 長い尾をぴんと立て、琥珀色の瞳をきらりと輝かせる。

 「……え?」

 エミリアは目を瞬かせ、カーリンが思わず口元を押さえる。
 セルジュでさえ、いつも冷静な顔に驚きの色を浮かべていた。
 小さなシルバは前足をちょこんと揃え、エミリアを見上げる。

 〝これならいいでしょう?〟

 言葉はないが、その表情がはっきりとそう訴えていた。
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