あなたとは合わないと思っていたけれど
 仕事の後や休日は、全てのエネルギーを勉強や体力つくりに注ぎ、ストイックに過ごしていた。

 同僚の誘いを断り続けていたせいで、クールで孤高な近づきがたい人間だと誤解され遠巻きにされるようになっていた。
 
 ひとりの人間としてもパイロットとしても、人との交流は大切なのに疎かにしてしまっていたのだと気がついた。

 それからは視野が狭くなっていた自分の態度を改めて、周囲との関係に気を配るようになった。

 地上勤務期間が終了し、自社養成パイロットコースに進んでからは、ハードな訓練の連続で、初めて挫折も経験した。

 国内訓練、海外訓練と進み、その間は年末年始でも実家に戻らず、仕事を中心に過ごしていた。

 初めは航空会社への就職に反対し、天谷物産で働くことを望んでいた両親も、武琉が何を言っても聞き入れず意志を変えなかったからか、気付けば何も言わなくなっていた。

 だからてっきり家業に関わらずパイロットとしての道を選んだ武琉を、積極的に応援はせずとも、黙認していくれるようになったのだと思っていたのだ。

 しかし着々とフライトを熟し、機長への昇格が視野に入り始めた頃に、実家から結婚を迫る連絡が来はじめた。

『武琉。縁談を用意したから、一度実家に帰ってきなさい』
『結婚は当分考えてない、悪いけど断っておいて』

 突然の縁談に戸惑いながらも拒否した。ところが両親は聞き入れず、その後も頻繁に見合いを強要してきた。

『うちの仕事を手伝いもせずに自由にしているんだから、せめて結婚くらいはしっかりしなさい』

 彼らが言うには三十になるまでに家庭を持てとのことだった。安定した家庭を持ってこそ、一人前の男なのだということだった。
 馬鹿らしい、仕事をするのに既婚か独身かなんて関係ないだろう。そう思ったが両親の価値観を変えるのは難しい。

 時代が違うと言っても兄が二十八で結婚し良好な家庭を築いたうえで『武流も早く子供を持てよ。本当に可愛いぞ』などと言って娘を溺愛している状態なので説得力がない。

 都度断っても諦めずとにかくしつこかった。

 終いには妹のようにしか見られない幼馴染までも見合い相手にしようなんて話まで上がったが、甘やかされて育ち成人してからもなにかと武琉を頼ってくるような、幼さが残る相手だ。

(そんな相手と結婚して安定した家庭なんて築けるわけがないだろ?)

 武琉の負担が増えて疲れ果てるだけなのが目に見えている。

 妹としてならいい。しかし結婚する相手は、対等な関係を築ける女性がいい。

 自立していてお互いを尊重し合えるような人でないと、一生を共に過ごすなんて無理だ。

 しかし両親は、家柄に問題がなければ人柄なんてどうでもいいと考えているのか?
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