運命には間に合いますか?
「俺に恋人がいると思って、そんな顔をしているのか? だったら、少しは望みがあるってことだな」
「ちがっ――」
 おもしろそうに瞳をきらめかせた彼の顔が近すぎて、カッと頬が熱くなる。
 距離を取ろうと、彼の手首を掴んで身を引いたとき、守谷さんは言った。
「美奈子は恋人じゃないよ。妹だ」
「いもうと……?」
 呆けた私はまじまじと目の前の人の顔を凝視する。
 そして、次の瞬間、カーッと頬をほてらせた。自分でも真っ赤になっているのがわかる。
 私は盛大な勘違いをして守谷さんを責めていたのだ。しかも、誤解だということは、さっきまでの言葉が純粋なもので……。
 そう考えたら、申し訳なさとうれしさと戸惑いが同時に頭を埋め尽くしてうろたえた。
「ご、ごめんなさい。私、てっきり……」
「いや、いい。君は最初のから美奈子のことを気にしていたのに、誤解に気づかなかった俺が悪い」
「いいえ、私もちゃんと聞けばよかったんです。まぎらわしい言い方をして、ごめんなさい」
 恋人という言葉を出したくなかったのだと思う。それぐらいには彼に惹かれていた。
 お互いに謝り合って、顔を見合わせて照れくさくて笑った。
「それで、恋人のいない俺はどうだ? 付き合ってくれるか?」
「……」
 私はすぐには答えられなかった。
 誤解は解けたものの、それとこれとは話が違う。
 先ほども思ったように、私は恋愛にかまけている場合ではないのだ。
 だいたいどういうつもりで言っているのかもわからない。出会ってすぐにこんなことを言いだすなんて、守谷さんは意外と軽いのかもしれない。
 そこで、私は率直に思ったことを口にした。
「でも、私たちは昨日出会ったばかりで、お互いのことをなにも知りません」
「好きになるのに時間は必要ない。今日一緒に過ごしてわかった。君の優しさやひたむきさが好きだ」
 疑ったのを申し訳なく思うほど真摯に守谷さんは言ってくれた。
 熱く見つめられ、まっすぐな気持ちを向けられて、動揺する。
(好きって……)
 トクトクトクと心臓が騒ぎだした。
 こんな素敵な人に告白されて、うれしくないはずがない。今日は長時間一緒にいたけど、不思議なほど自然体でいられたし、本当に楽しかった。誰といてもこんなことはなかなかない。
 それでも、私はうなずけなかった。
「ごめんなさい。守谷さんは魅力的な人だと思います。でも、今はそういうことを考える余裕がなくて……。研修生になったばかりですし」
 断り文句を口にすると、守谷さんはストップと手を伸ばして私を止めた。そして、しまったなぁとつぶやきながら髪を掻き上げた。
「たしかにタイミングが悪かったな。ごめん。俺はせっかちだってよく言われるんだよ」
 わかってくれたみたいでほっとする。
 出会って二日目に告白するなんてせっかちにもほどがあると思い、苦笑した。その分、仕事も早そうだけど。
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