運命には間に合いますか?
 油断していた私に、守谷さんは聞いてきた。
「でも、嫌じゃないってことだろ?」
「えっ? もちろん嫌なんてことはないです。光栄です」
 守谷さんを嫌がる女性などいないだろう。
 色気のある彼の顔を見返すと、守谷さんは薄い唇の端をくいっと上げた。
「それなら、これからじっくり口説かせてもらうよ」
「えぇっ!」
 告白タイムは終わったかと思ったのに、ぜんぜん終わってなくて、それどころか継続宣言されてしまう。
 (そんなの、困る……)
 どう返したらいいのかわからず、私は目をうろつかせた。
「今日のところは返事はいいから」
「ですから――」
「返事はイエスしか受け付けない」
「そんな!」
 にんまり笑う守谷さんに抗議するけど、聞く耳持たない感じで、私はあきらめた。
 強制的に話を打ち切って、逃げ帰ることにする。
「……今日はありがとうございました。おやすみなさい」
 ドアを開けて車を降りようとすると、後ろから声をかけられた。
「次に会うのは明後日の研修だな。楽しみにしてるよ」
「よろしくお願いします」
 ぺこりと頭を下げたら、守谷さんは手を振ってから車を発進させた。
 それを見送り、私は深い溜め息をつく。
(すごい自信だなぁ)
 きっと彼が迫って落ちなかった女性はいないのだろう。
 でも、私はムリ。そんな余裕はない。
 それに、今でさえこんなに気持ちを乱されるというのに、付き合ったら振り回されるのが目に見えている。
 せっかちと言っていたから、断り続けていたら、意外とあっさりあきらめてくれるかも。
 楽観的に考え、守谷さんを頭の中から追い出した。
 
 
 
 
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