10分間で訪れた別れと出会い ~待っていたのは、強引な犬系男子の甘やかな求愛でした~


「着きました。どうぞ、上がってください」
「ありがとうございます。お邪魔します」

エレベーターに乗って到着したのは、最上階の二十三階だった。
学生時代から住んでいると言っていたし、慎の家庭は裕福なのだろうと思ったが、どうやら自分で稼いだお金でこのマンションを借りているようだ。

香澄は、慎が一体何の仕事をしているのか気になった。
しかしその疑問は、慎の部屋にお邪魔してすぐに解消されることになった。

「ギターに、これは……楽譜?」
「あはは、散らかっていてすみません。作業中のままだったんです」

目に飛び込んできたのはギターと、フローリングの床に散乱している数えきれないほどの楽譜だった。
慎は元から音楽が好きで、その道で食べていきたいと考えていたらしい。学生時代から活動を始め、今では名の知れた作曲家として活躍しているようだ。
慎が作ったのだというCMソングやドラマの挿入曲は、テレビをそこまで観るわけでもない香澄も聴いたことのある曲だった。
普段は作業部屋で作曲を行っているようだが、時々気分転換に、こうしてリビングで曲作りをすることもあるみたいだ。

「……蓮見くんはすごいね」

香澄は素直に感心してしまった。まだ若いのに、自分の好きなことを仕事にして安定した収入を得ているのだ。
給与面や家からの通いやすさといった条件だけで今の仕事を選んだ香澄とは、全然違う。

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