10分間で訪れた別れと出会い ~待っていたのは、強引な犬系男子の甘やかな求愛でした~

第三話 あなたのことが知りたくて



「それじゃあ手当てをしますね。そこのソファに座ってもらってもいいですか?」
「うん。お願いします」

言われた通り、黒い革張りの二人掛けソファに腰掛ける。
すぐに救急セットを手にして戻ってきた慎は、香澄の前に膝をつくと、丁寧な手つきで処置をしてくれる。

「あの、香澄さんって呼んでもいいですか?」
「うん、大丈夫だよ」
「ありがとうございます! あの、香澄さんはこれからどこかにお出かけの予定だったんですか? 服とか髪とか、すごく可愛くしてるので」

さらりと告げられた“可愛い”の言葉に胸がソワソワと落ち着かなくなるのを感じながら、香澄は平常を装って頷く。

「うん、これから映画を観に行こうと思ってたんだ」
「映画ですか! いいですね。……あ、もしかして誰かと約束とかしてましたか?」

引きとめてしまったと勘違いした慎は、申し訳なさそうな顔をしている。
香澄はそれを否定するべく、緩く首を横に振ってみせた。

「ううん、一人で観に行く予定だったから大丈夫だよ。……まぁ、本当は一緒に観に行こうって約束してた人がいたんだけどね」
「……何かあったんですか?」
「え?」
「香澄さん、浮かない顔をしているように見えるので」

慎は人の感情の機微に敏感なようだ。香澄の胸の内が曇っていることに気づいたらしい。
慎が話す声や表情から、心から香澄のことを心配してくれていることが伝わってくる。

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