欠けていく世界で、きみの光を見つけた
暗闇の中、バランスを崩しかけた私を受け止めたその人は、両手を握ってこちらに視線を向けた。
「俺、泰史。わかる?」
名乗ってくれる優しい声に、胸がどくんと大きく鳴る。
「……うん」
なんとか頷いてみせるけれど、その声は震えていた。
その間に、泰史くんは少しだけ顔を上げて、暗闇の向こうへ視線を向ける。
——きっと、ひまりたちだった。
もしかしたら、晴斗くんや直哉くんもいるのかもしれない。
小さく足音が遠ざかっていくのが聞こえて、少しだけホッとする。
急にしゃがみ込んだ私をきっとみんなは不思議に思っただろうけど、いつまでも動けずにいるのは、もう言い訳のしようがなかったから。
静かになった廊下で、泰史くんは小さく息をついて、私の手を引いた。
「こっち」
短く言って、少しだけ場所を移動する。
暗闇の中で、何も見えないのは変わらないのに、なぜかこの手の進む先は怖くない。
安心した途端、張りつめていたものが切れたみたいに、涙がぽろぽろとこぼれた。
「……っ」
うまく声にならなくて、ただ息だけが乱れる。
先生の部屋が並ぶ廊下を抜けた先で、泰史くんは階段に私を座らせた。
「ごめんなさい……っ」
泣き続ける私に、隣に座った泰史くんは少し困ったようにぽつりと呟いた。
「いいよ。事情知ってんだし、謝るなよ」
その言葉に、胸の奥がぎゅっと掴まれる。
ひとくくりに病名があっても、人によって症状が異なる私の病気を、泰史くんがどこまで聞いているのかわからない。
だけど、誤魔化しようのないくらい、優しくて心配そうな声を聞いてしまったら。
私は涙を拭いながら、震える唇でなんとか言葉を絞り出した。
「……夜が、すごく見えづらいの。暗いところだと、光もぼんやりとして見えて」
ずっと、言わないようにしてきたものを初めて口にする。
「でも、みんなと、楽しみたかった」
そして、自分の本音を口にした瞬間、さらに大粒の涙があふれた。
「ひまりもふうかも行くのに、私だけ部屋に残るなんて、悔しくて」
止まってくれない涙でぐしゃぐしゃになりながら続ける。
「迷惑かけて、ごめんなさい……っ」
言い終わるころには、息も途切れ途切れで。
しゃくりあげる呼吸が、先生の部屋に届いてしまわないか心配だったけど、抑えようとすればするほど呼吸は苦しくなる。
泰史くんは、少しだけ呆れたように息をついて「大丈夫だって」と手を握った。
温かい手のひらは、じんわりと私の呼吸を解いていく。
「あいつらに、言えばよかったじゃん。聞いてくれるだろ」
小学校から一緒にいるふたり。
泰史くんとこんな風になる前から一緒にいるから、もちろん彼も二人のことはよく知っている。
「気遣われるのが、嫌だった」
涙を拭きながら、首を振った。
「言ったら、きっと一緒にいるって言ってくれるもん」
——私のせいで、みんなの楽しみは奪えないよ。
そう呟くと、泰史くんは少しだけ黙って、小さく息を吐き出した。
きっとまた、呆れている。
だってそんなことを言うくらいなら、ひとりで残ったら良かったのに。
結局、私のわがままで、泰史くんに迷惑をかけてしまった。
自己嫌悪にまた涙が溢れそうになったとき、すくっと泰史くんが立ち上がった。
「じゃあ……お前はさっき転んで、足を怪我しました」
突然、物語のように話し始めた泰史くんに、驚きで涙が引っ込んでいく。
「で、運良く通りかかったイケメンの俺が、連れていってあげます、と」
一瞬、何を言われたのか分からなくて、目を丸くしたまま見上げると、泰史くんは恥ずかしそうに視線を外した。
「なんか言えよ。俺バカみたいじゃん」
珍しすぎる泰史くんの表情に、彼なりに雰囲気を柔らかくしようとしてくれたのだと気づき、私はあたふたと視線を泳がせる。
こんな風に、冗談を言うような会話は本当に久しぶりで、どうすればいいのか正直わからなかった。
そして泰史くんは、階段を降りて私の目の前にしゃがみこむ。
「ほら。乗れよ怪我人」
両手でリレーのバトンを受け取るような体制に目を丸くした。
「え……?」
戸惑っていると「行きたいんだろ」と小さく言葉が落ちる。
迷惑をかけられたのに、私のわがままを聞いてくれて、こんな風に叶えようとしてくれる。
ずるいくらいの優しさに、別の涙が流れそうになった。
「早く」
迷っている私に痺れを切らしたのか、彼は一度振り向いて私の腕を自分の首に回させた。
流されるように体を預けると、ぐっと持ち上げられて、視線が少し高くなる。
背中越しに伝わる体温に、胸がどきどきと騒ぎ出した。
「俺、泰史。わかる?」
名乗ってくれる優しい声に、胸がどくんと大きく鳴る。
「……うん」
なんとか頷いてみせるけれど、その声は震えていた。
その間に、泰史くんは少しだけ顔を上げて、暗闇の向こうへ視線を向ける。
——きっと、ひまりたちだった。
もしかしたら、晴斗くんや直哉くんもいるのかもしれない。
小さく足音が遠ざかっていくのが聞こえて、少しだけホッとする。
急にしゃがみ込んだ私をきっとみんなは不思議に思っただろうけど、いつまでも動けずにいるのは、もう言い訳のしようがなかったから。
静かになった廊下で、泰史くんは小さく息をついて、私の手を引いた。
「こっち」
短く言って、少しだけ場所を移動する。
暗闇の中で、何も見えないのは変わらないのに、なぜかこの手の進む先は怖くない。
安心した途端、張りつめていたものが切れたみたいに、涙がぽろぽろとこぼれた。
「……っ」
うまく声にならなくて、ただ息だけが乱れる。
先生の部屋が並ぶ廊下を抜けた先で、泰史くんは階段に私を座らせた。
「ごめんなさい……っ」
泣き続ける私に、隣に座った泰史くんは少し困ったようにぽつりと呟いた。
「いいよ。事情知ってんだし、謝るなよ」
その言葉に、胸の奥がぎゅっと掴まれる。
ひとくくりに病名があっても、人によって症状が異なる私の病気を、泰史くんがどこまで聞いているのかわからない。
だけど、誤魔化しようのないくらい、優しくて心配そうな声を聞いてしまったら。
私は涙を拭いながら、震える唇でなんとか言葉を絞り出した。
「……夜が、すごく見えづらいの。暗いところだと、光もぼんやりとして見えて」
ずっと、言わないようにしてきたものを初めて口にする。
「でも、みんなと、楽しみたかった」
そして、自分の本音を口にした瞬間、さらに大粒の涙があふれた。
「ひまりもふうかも行くのに、私だけ部屋に残るなんて、悔しくて」
止まってくれない涙でぐしゃぐしゃになりながら続ける。
「迷惑かけて、ごめんなさい……っ」
言い終わるころには、息も途切れ途切れで。
しゃくりあげる呼吸が、先生の部屋に届いてしまわないか心配だったけど、抑えようとすればするほど呼吸は苦しくなる。
泰史くんは、少しだけ呆れたように息をついて「大丈夫だって」と手を握った。
温かい手のひらは、じんわりと私の呼吸を解いていく。
「あいつらに、言えばよかったじゃん。聞いてくれるだろ」
小学校から一緒にいるふたり。
泰史くんとこんな風になる前から一緒にいるから、もちろん彼も二人のことはよく知っている。
「気遣われるのが、嫌だった」
涙を拭きながら、首を振った。
「言ったら、きっと一緒にいるって言ってくれるもん」
——私のせいで、みんなの楽しみは奪えないよ。
そう呟くと、泰史くんは少しだけ黙って、小さく息を吐き出した。
きっとまた、呆れている。
だってそんなことを言うくらいなら、ひとりで残ったら良かったのに。
結局、私のわがままで、泰史くんに迷惑をかけてしまった。
自己嫌悪にまた涙が溢れそうになったとき、すくっと泰史くんが立ち上がった。
「じゃあ……お前はさっき転んで、足を怪我しました」
突然、物語のように話し始めた泰史くんに、驚きで涙が引っ込んでいく。
「で、運良く通りかかったイケメンの俺が、連れていってあげます、と」
一瞬、何を言われたのか分からなくて、目を丸くしたまま見上げると、泰史くんは恥ずかしそうに視線を外した。
「なんか言えよ。俺バカみたいじゃん」
珍しすぎる泰史くんの表情に、彼なりに雰囲気を柔らかくしようとしてくれたのだと気づき、私はあたふたと視線を泳がせる。
こんな風に、冗談を言うような会話は本当に久しぶりで、どうすればいいのか正直わからなかった。
そして泰史くんは、階段を降りて私の目の前にしゃがみこむ。
「ほら。乗れよ怪我人」
両手でリレーのバトンを受け取るような体制に目を丸くした。
「え……?」
戸惑っていると「行きたいんだろ」と小さく言葉が落ちる。
迷惑をかけられたのに、私のわがままを聞いてくれて、こんな風に叶えようとしてくれる。
ずるいくらいの優しさに、別の涙が流れそうになった。
「早く」
迷っている私に痺れを切らしたのか、彼は一度振り向いて私の腕を自分の首に回させた。
流されるように体を預けると、ぐっと持ち上げられて、視線が少し高くなる。
背中越しに伝わる体温に、胸がどきどきと騒ぎ出した。