欠けていく世界で、きみの光を見つけた
「完璧!超まっすぐ!」

調整を終えたひまりが帰ってきて、垂れ幕の飾り付けが終わる。

「手空いた人は、椅子の用意始めてー!」

ひとつ終わればまたひとつ。

テキパキと次の指示を飛ばす先輩の声に、手を止めていた私たちも再び手元の折り紙に視線を戻した。

準備途中の体育館は、まだまだものに溢れている。

あちこちにステージ発表で使う道具もまとめられていて、床の至るところには飾り付け途中の装飾やガムテープが置かれたままだった。

「あっちー!休憩休憩!」

ギャラリーの階段を降りてきた晴斗くんが、大袈裟に首元を引っ張りながら声を上げる。

「椅子並べろって言われてんじゃん」

呆れたように返す直哉くんの隣で、他の男子たちも次々と壁際へ集まっていった。

「いーじゃん、ちょっとくらい休まないと熱中症だぞこれ」
「まぁ確かに、秋にしては暑いよな」

まくられた白いシャツや汗で張り付いた前髪が、夏のような空気を残している。

高い場所で作業していたせいか、みんな額に汗を浮かべていた。

「暑すぎる。上の人、ちょっとだけ窓開けてほしー!」

一緒に降りてきた三年生がそんな指示を飛ばす。

するとギャラリーに残っていた生徒たちが一斉に窓を開けた。

カーテンが大きく揺れて、体育館の中に涼しい風が流れ込んでくる。

男子たちは涼しそうに風を浴びて、それぞれがペットボトルを手に休憩を始めた。

ギシ。

そのとき、小さく金属が軋む音がして、私は手を止める。

音のした方へ顔を向けると、さっきまで展示に使っていた大きな脚立が見えた。

脚立の周りでは、まだ男子たちが楽しそうに休憩をしている。

すぐ下には、友達と話しながらペットボトルを傾けている泰ちゃんの姿もあった。

「……泰ちゃん」

小さく呟いた、その時だった。

ギシ。

もう一度、さっきよりも確かな金属音が響いて、胸の奥がざわつく。

誰も乗っていない脚立が立てる音に、みんなは気づいていないみたいだった。

私は無意識のうちに立ち上がる。

「菜由?」

顔を上げたひまりの声を聞かずに、私は足を踏み出していた。

ギシッ。

今までで一番大きな音が響いて、嫌な予感が確信に変わる。

「……泰ちゃん!」

私は、彼に向かって、一直線に駆け出した。

暗がりで、足元には道具や段ボールが散らばっている。

いつもなら絶対に足を踏み出せない場所なのに、どうしてかその時は何も気にならなかった。

ガムテープを踏み、置きっぱなしの箱に躓きながら走る。

不規則に響く足音に気づいたのか、泰ちゃんが顔を上げた。

「菜由?」

不思議そうにこちらを見た、その瞬間。
彼の背後で、ぐらりと脚立が傾く。

「泰史、危ない!!」

晴斗くんを引っ張って後ずさった直哉くんの叫び声が響いた。

ようやく異変に気づいた泰ちゃんが振り返り、驚いたように目を見開く横顔が見える。

「泰ちゃん!!」

私は必死に手を伸ばし、触れた腕を思い切り引っ張った。

ガシャァァン!

脚立が床にぶつかる衝撃音が響く。

賑やかだった体育館が一瞬のうちに静まり返った。

強く引いた勢いで私は尻餅をつき、泰ちゃんが私を潰さないように腕をついて倒れ込んでいた。

「……あ、菜由、お前、怪我ない!?」

ハッとしたように起き上がった泰ちゃんを見て、私はホッと息を吐く。

「大丈夫……」

反射的にそう答えて体を起こした。
次の瞬間、ズキッと足首に鋭い痛みが走る。

「っ……」

思わず顔を歪めた瞬間、泰ちゃんが怪我を確認するように私から離れた。

「菜由ちゃん!?足!」

駆け寄ってきた直哉くんの声に、泰ちゃんが振り返る。
その瞬間、私も慌てて足を引っ込めた。

「足、どうした、どうなってた!?」

私が答えないことなんて、きっと泰ちゃんには分かっていた。

彼は、真っ先に私ではなく直哉くんへ詰め寄っていく。

「脚立、当たって見えた……けど……」

その勢いに押されながら、不安そうに答えた直哉くんに、泰ちゃんは今度はこちらを振り返った。

座り込んだままの私に、ぐさりと鋭い視線が突き刺さる。

「なにしてんだよ!なんできたんだよ!」

久しぶりなのが嘘みたいに、泰ちゃんは強く私を怒鳴りつけた。

その声と合わないくらい優しく足に触れる手が、小刻みに震えている。

その手から、彼の動揺が伝わってきて、私は目を丸くした。

「だって、泰ちゃん、気づいてなかったから……」

今になって心臓がどくどくと音を立てている。

「……なんで」

怒っているようにも、悲しそうにも聞こえる声だった。

私の肩に手を置いたまま、はぁ、と大きく息を吐いて首を垂れる。

「大丈夫!?」

生徒会の先輩の声が近づいてくると、泰ちゃんはすっと顔を上げた。

そのまま私の腕を持ち上げて自分の首へと回す。

「保健室。連れて行きます」

先輩たちにすら有無を言わせないような低い声で泰ちゃんは呟いた。

周りでたくさんの人がざわつく中、私は抱え上げられて、体育館をあとにした。
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